名も無い関係【進撃の巨人】 (ページ10)

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Episode 09 ページ10

太陽が真上に顔を出そうとしている頃、馬小屋の前で待っていると、ようやく目当て人物が戻ってきた。

「リヴァイ！」

ハンジは姿を確認すると、彼の名前を叫んだ。

いつもなら会議でももっと早く帰ってくるのに、こういう時に限って戻ってくるのが遅い。待ちくたびれて、こちらから迎えに行こうかと思っていたが、辛抱して待っていて良かった。

これで行き違いにでもなっていたら、それこそ手遅れになるかもしれない。

「こんなとこで何してんだ」

人の気も知らず、不審そうな瞳をリヴァイはハンジに向ける。

「あなたを待ってたに決まってるでしょ」

「？」

「A。実家に戻ったよ」

言葉の指す意味は理解したのだろう。端正な顔が一気に険しいものになる。

「どうするの。ここで行かなきゃ手遅れになるよ」

「………」

「リヴァイ！」

急かすようにもう一度、名前を強く呼ぶ。

「大声出さなくても聞こえてんだよ。クソメガネ」

彼は馬の手綱を引き、方向を来た方へと変えた。

「二人して戻ってこなかった時の言い訳は考えといてあげるよ」

「お前はいつも一言多いんだよ」

馬が嘶き、砂が風に舞った。

買い出しなどに行く時はいつも誰かと一緒だったから、街に一人で出るのは久しぶりだった。時々すれ違う子どもの笑顔になんだかホッとなる。

久しぶりに着た私服は昔も着ていたのになんだかひどく違和感を感じる。

スカートなんて履いたのはいつぶりだろうか？

突然の娘の帰宅に母は驚きと同時に心から喜んでくれた。それを見れただけでも帰ってきてよかったと思う。ただ、戻ると昔の生活が懐かしくなり、帰りたい気持ちが湧いてくるのも確かだった。

だから、Aは長居をせず、母に渡された紙を片手に憲兵団支部に向かっていた。

憲兵団の旗が揺れる建物が近づいてくる。

母から渡された紙に書かれた名前を頭の中で復唱する。確か年は自分より５つ上だったか。Aはいちど深呼吸をして、入口付近にいた憲兵団の兵士に声をかけた。

「すいません。フランツ・ベルグナーさんを呼んでいただきたいのですが……」

自分の名前を告げると、兵士は少し待つようにと言って呼びに行ってくれた。

空を見上げると、太陽は西に少し傾いたくらいで、まだそんなに時間が経っていないことを教えてくれた。