Episode 10 ページ11
こんなにのんびりと空を見上げたのなんていつぶりだろうか。
眩しさに細めた瞳に、奥から走ってくる人物が見えた。
「お待たせしてすいません!」
慌てた様子で走ってくる相手にAは小さく頭を下げた。
母の話では相手は自分のことを知っているとのことだったが、Aには相手の名前に覚えがなかった。
実際、こうやって目の前にしても自分の記憶の中にこの顔はない。
「お呼びだてして申し訳ありません」
「いえ!まさかAさんの方から来て頂けるとは思ってもみませんでした」
「あの……失礼なのですが、どこかでお会いしましたでしょうか?」
端正な顔が優しげにクシャりと崩れる。
確かに男前で、物腰も穏やかな人だ。誰かさんとは正反対だななんて思ってしまう。
「記憶にないのも無理ないと思います。自分が勝手にお慕いしていただけですので……」
はっきりと自分に好意があると言われてしまうと、不本意ながら胸が小さく音を立ててしまう。
「あの……私……」
「返事は急いでおりません。ただ、あなたのお母様と偶然知り合うことができたことが自分には奇跡だと思ってます」
「………」
「この奇跡をこのまま終わらせたくないと思い……」
「随分とキザなセリフだな」
言葉をかぶせてきた声には聞き覚えがあった。こんなとこにいるはずがないのにと思いながら、Aは勢いよく振り返る。
「へ、兵長……なんで……」
「悪いがコイツは返してもらう」
「え……」
「来い、A」
「な……」
反論も許さないといったように手首を掴まれ、力ずくで歩かされる。
頭が混乱して考えが追いつかない。
何か言わないといけないのに言葉が出てこない。
せめてこの手だけでも振り払おうとした時に、リヴァイの様子がおかしいことに気がついた。
息が上がっている。
表情はいつもと変わらない無表情さなのに息が上がり、掴んでいる手のひらは少し汗ばんでいる。
まさか。ここまで急いできたというのだろうか。
「な……んで……」
掴まれた部分が熱い。
もう期待してはいけないって思っているのに、この手を振り払えない。あんなに泣いたのに。もう、終わりにしようと思ったのに。
どうしてこの手を振り払えないのだろうか。
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作者名:マキノ | 作成日時:2021年10月26日 17時