Episode 05 ページ6
悲しいと同時にムカついてきた。
だったら何故、あの夜に自分を離すつもりがないとか言ったのだろう。
期待させるようなことを言うのは、ただ自分の欲を満たすための都合のいい言葉というわけか。
「調査兵団とは違い憲兵団の奴なら俺たちより長生きできるだろう。そのほうが____」
「兵長、失礼します」
ガタリと椅子を引き、立ち上がってグッと目の前にいる人物に机越しに体を近づけた。いつもと変わらない無表情の頬に向かって手を伸ばす。
そして……
パチン
両手でその頬を包むようにして叩いた。ボロリと涙がこぼれて、机の上で跳ねる。歪んだ視界の中でも、相手が驚いている顔が鮮明に映った。
ああ、もうこれで彼との間には何もなくなってしまった。
きっともう、彼の部屋に行くこともなくなるだろう。
「兵長のおっしゃってることに間違いはありません。あなたは私の上官であり、私はあなたにとってただの部下です。兵長がなんの感情も私に抱いてないこともよく分かりました。いえ、分かっていたのに私が勝手に自分は特別なんじゃないかって勘違いしてただけです」
手が震える。涙が止まらない。
「無礼なことをして申し訳ありませんでした。勝手な勘違いをして申し訳ありませんでした。ただ……無礼ついでにひとつだけ言わせてください」
言葉が止まらない。感情が溢れ出して止めることができない。
「私は馬鹿だから優しくされたらつけあがってしまいます。あなたに抱かれるたびに必要にされてるって思ってしまいます。離さないって言ってもらえて死ぬほど嬉しかったのに……」
ああ、もう駄目だ。傍にいれるだけでよかったのに、なぜそれ以上を望んでしまったのだろう。望まなければ小さなことでも幸せだったのに。
「………兵長の……バカ。だったら……優しくなんてしないでください……………っ」
ぶつかった椅子が派手な音を立てて、床に倒れた。だがそれを直すことなんて、今の自分にできるはずもなく、Aは振り返ることなく部屋を駆け出る。
残されたリヴァイはそれを見送った後、暫くしてから自分の頬を手でぐいっと擦った。
「……ってえな……」
誰に言うわけでもなく、小さく、小さく呟いた。
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作者名:マキノ | 作成日時:2021年10月26日 17時