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Asaid
「ただいま」
今日は用事があると嘘をつき、折原さんを待たずに1人で帰ってきた。
少し悲しそうな顔をしていて罪悪感に胸がいたんだけれど、正直そのことを気遣う余裕もないくらい、私の頭の中はぐちゃぐちゃなのだ。
玄関で靴を脱ぐなりその場にへなへなと座り込んでしまう。
「やっぱり、センラさんだった……」
誕生日も同じで、きゅうりが苦手なのも同じ。
こんな偶然、あるはずがない。
どう考えても、誰がなんと言おうとも、彼はセンラさんなんだ。
ずっとずっと坂田さんのことが好きで好きで仕方なくて、坂田さん以外の男の人なんて見えてなかった私が、少しずつだけど確かに惹かれていった男の人。
今の私はきっとガチ恋の坂田家じゃなくって、ただ坂田さんが好きな坂田家の1人。
そう思ってしまうくらい、折原さんのことを好きになってしまった。
でも言えない。
好きだなんて、絶対に伝えられない。
だって彼は毎度5000人を超える視聴者を持つキャス主で、美しいその声でたくさんのリスナーを作った、大人気歌い手なのだから。
私なんかが、手を伸ばしていい存在じゃない。
唯一と言っていいかもしれない親友に電話をかける。
週に1度は会う、二つ年上の親友。
『もしもし?』
「もしもし」
『突然電話かけてくるなんて珍しいじゃない、どしたの?』
突然電話をかけても怒らない、本当に優しい人。
彼女も坂田家だから、少し言うのはためらわれるんだけど……今回の話を話すのに、言わないわけにはいかない。
「あのね、私、ガチ恋の坂田家降りることにしたの」
『……突然ね。どうしたの?』
「好きな人ができたんだ。とっても素敵な人。だからガチ恋を降りて、ただの坂田家になった」
『なんだ、びっくりした……そもそも坂田家を降りるんだと思った』
「そんなことできるわけないでしょ、坂田さん大好きだもん」
『それで?それだけじゃないんでしょ?』
やっぱ鋭いなぁ。
長年の付き合いだからってのもあるのかもしれないけど、電話越しでよくそんなことわかるよね。
「好きになった人が、センラさんだった」
『今度はガチ恋のセンラーになるってこと?』
「ううん、違うの」
なんだか視界がぼやけていく。
あ、私、今、泣いてるんだ。
そう自覚したらさらに涙が零れてきた。
どうにかして嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。
「好きになった人がね、センラさん、だったのっ……」
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響 - これからも頑張ってください!長文失礼しました。(続きです。初めてこんなにコメント書きました(笑)) (2022年3月2日 17時) (レス) id: 7b474202c0 (このIDを非表示/違反報告)
響 - 日替わりのほうで予告を見て読ませていただきました!語彙力ないのでうまく伝えられるかわかりませんが一つ一つのお話がしっかりしていて話の展開も全然急じゃないのに飽きなくてすっごくいい作品でした!個人的には番外編の志麻さんが出てくるお話が好きです(笑) (2022年3月2日 17時) (レス) @page44 id: 7b474202c0 (このIDを非表示/違反報告)
坂ちゃん(プロフ) - やばい。すげぇ似てる。私、恋人いるんですけど、坂田家なんです。その上恋人の好きな色は黄色... (2018年12月24日 11時) (レス) id: 2e3d2564c8 (このIDを非表示/違反報告)
せらてゃ - 全て読ませて頂きました!!小説読んでて初めて笑いましたwwおもしろいとこがたくさんあって笑っちゃいましたwもうかわいかったです!!これからも頑張ってください(><) (2018年11月25日 1時) (レス) id: 838c277702 (このIDを非表示/違反報告)
ほわいとふぃっしゅ(プロフ) - つぼみさん» そのように言っていただけて本当に嬉しいです……。少し先になってしまうのですが、坂田さんの短編を書かせて頂きたいなとは思っているので、気長にお待ちください!! (2018年10月29日 18時) (レス) id: b3ad7ee62f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほわいとふぃっしゅ | 作成日時:2018年9月8日 22時