先輩の、となり。２

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誰にも言ってなかったのに。

「何かあった？」

2月の終わりくらいに、Aが突然そう聞いてきたから、驚いた。

「何、なんで？」

「うーん。なんでって言われるとなんとなくなんだけど。みんなといる時無理してるように見えた」

すごいな。

当たってるよ。

「……そう？」

「あ、気のせいだったらいいの」

「……ちょっとプレッシャーだったのかも。
変に一年生エースって騒がれたりしたから」

そう言ってごまかしたけど。

焦った反面、妙に嬉しかった。

俺のことを一番わかってくれるのは、やっぱりAだ、ということが。



美月とは付き合っていたけど。

俺はまだAが好きだった。

美月が純粋に俺を好きでいてくればいてくれるほど。

Aを忘れるために利用してるみたいで嫌だった。

美月は適当な気持ちで付き合うには、いい子すぎるくらい、いい子だったから。

「やっぱり適当な気持ちでは美月と付き合えないから。別れたい」

ホワイトデーに、美月にそう言ったら。

「私は別れたくない」

そう言って泣かれた。

「美月はいい子だから。可愛いし。
ちゃんと好きになってくれるやつと付き合う方がいいよ」

「私は藤ヶ谷くんがいいんだよ」

そこまで言ってくれるのに。

どうして駄目なんだろう。

どうしてAじゃないと駄目なんだろう。




甲子園出場の3日前に。

俺の肘は激痛で動かなくなった。

あと少しでかなうはずだった俺の夢も、Aとの約束も。

全部一瞬で消えてしまった。



そんな時でさえ。


「笑わないでよ」

「笑わなくていいんだよ」

「甲子園には、太輔と行く」


どうしてAは。

俺が一番ほしい言葉をくれるんだろう。





もう一度頑張ってみよう。

そう思っていた俺は。

リハビリを始めて、現実に打ちのめされた。

肘が曲げられない。上がらない。

力も全然入らない。

それなのに先生は、言うんだ。

「順調ですね」




投げられるようにはなるのかもしれない。

でも無理だ、と思った。

次の秋季大会も、最後の夏の予選も。

甲子園に行くようなピッチングは、絶対に無理だ。


足元がぐらぐら揺れて、真っ暗などこかに落ちてくような気分だった。


「じゃあAはマネージャーやってよ。
俺が甲子園に連れてく！」




夢も約束も全部なくした俺の心は、悲鳴をあげてた。







『僕の、ゆめ。』…END…

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