先輩の、となり。２

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準優勝だった秋季大会が終わってから、急にギャラリーが増えた。

Aがもっと下がるように注意してる時、ボールが飛んできたから思わずかばったら背中に当たった。

「いって」

「太輔！当たったの？どこ？」

「……背中」

Aが何のためらいもなく、俺のユニフォームをめくって、俺の心臓はどくん、と鳴った。

「ちょっと冷たいけど我慢してね」

コールドスプレーより、俺の背中にふれるAの手が気になって。

俺の心臓はずっとどくどく鳴りっぱなしだった。


「……Aの手が冷たい」

「あ、ごめん」

　
その時俺は思い知った。

Aのことを諦めたつもりだったけど。

全然諦められていない、ことを。


ちょっとAが俺にふれるだけで。

意識しすぎて目も合わせられない、ことを。



駄目だ、と思った。

このまま今までみたいに近くにいたら。

俺はいつか自分の気持ちが抑えられなくなって、それを理不尽にぶつけて。

Aを傷つけたり困らせたりしてしまう、と思った。


『朝走ることにしたから、学校しばらく一緒に行けない』

そうラインして、朝一緒に学校に行くのをやめた。

なんだかんだ理由をつけて一緒に帰るのもやめた。

和兄に誘われても家に行くのもやめた。



その頃、よく練習を見にきてた美月から告白された。

「俺ずっと好きな子がいて。振られたけど。
たぶんまだその子が好きなんだ」

正直にそう言ったけど。

「それでもいいの。
ゆっくりでいいから」

「でも……好きになれるかわからないよ」

「いいの。
その子が好きなままの藤ヶ谷くんでも、私はいいの」

そう言ってくれる美月と付き合うことにした。


俺とAには距離ができて。

美月は可愛くてすごくいい子だったし。

選抜の出場も決まったし。

甲子園にAを連れてくって約束が果たせたら。

今度こそ全部終わりにできるって思ってた。




思ってた、のに。

1月の終わりくらいから、なんだか肘の調子がおかしかった。

最初はちょっとした違和感、程度だった。

普通に投げられたし、気のせいだと思いたかった。

だけど違和感はだんだん大きくなり、たまに痛みが出るようになり。

ネットで調べたら、離脱性骨軟骨炎が症状にあてはまる。いわゆる野球肘ってやつ。

「投球動作の禁止もしくは手術」

治療法を見て愕然とする。


あと2か月なのに。

あと2か月で夢がかなうのに。


俺は誰にも言わずに、投げ続けることを決めた。

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