先輩の、となり。

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「……先輩、休憩14時までですよね？何か食べに行きますか？」

「あーうん、そうだけど」

私が立ち上がったら、しゃがんだままの先輩にカエルの着ぐるみの袖のあたりを引っ張られた。

「そうだけど。もうちょっと二人でいようよ」

そんなこと言われたら、はい、としか言えない。

「はー、緊張した」

「え！緊張してたんですか？」
「するでしょ」
「全然そうは見えなかったです…それに私が嫌とか言うはずないのに」
「わかんないじゃん」

そ、そうかな。

「好きな子に好きって言うんだから、緊張するでしょ」


「先輩、あの変なこと聞いてもいいですか？」

「いいよ。何？」

「あの……先輩は、いつから、その」

「いつから好きだったかってこと？」

私がうなずくと、玉森先輩はうーん、て言いながら斜め上の方を見上げた。

「いつからなんだろ。
素直でまっすぐでかわいいな、ていうのは、わりと最初のころから思ってたかな」

「え？そうなんですか？」
「うん」

意外だった。
全然相手にされてないと思ってた。

「でもちゃんと言葉で伝えたいって思ったのは。
Aちゃんが花火のあと熱出して家に行ったときかな」

夏休み？けっこう前だ。


「あの時言ってくれたこと、嬉しかった」

「……何言いましたっけ」

「おい、忘れてんのかよ」

先輩が笑う。

「先輩の気持ちは先輩のものだって。
誰を好きでも、その気持ち大事にしていいって」

「……なんか私えらそう」

「そんなことないよ。嬉しかった」

そうだったんだ。

私が言った何気ない言葉も。

少しずつ先輩に届いてたんだな。



「あの時からちゃんとしようって思った」

「でも先輩…大崎先輩に告白して、もしうまくいってたらどうするつもりだったんですか？」

「ないよ。北山先輩にも、大崎先輩にも、ちゃんと過去形で言ったんだよ。『好きでした』って」



と、その時廊下を誰かが話しながら歩いてくる声が聞こえた。


「あ、やば。先生かも」

こっち、って先輩が私の手を引っ張って教卓の影に一緒に隠れた。

ち、近い。

すぐそばに先輩の少し茶色いきれいな瞳と、長いまつ毛があって。

不意にさっきのキスを思い出す。

「ん？」

「な、なんでもないです」

一瞬だったけど。

一生忘れないだろうな。


カエルの着ぐるみ着たまま、吸血鬼な先輩と初めてキスしたこと。

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