先輩の、となり。

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「ごめんね、さっき。やな思いした、よね」

私がぶんぶん首を振る。

「さっき……先輩が言ったことって」

先輩は軽くもう一度息をはくと、私の目をじっと見た。


「俺、Aちゃんが好きだよ」



文化祭のざわざわした喧騒が、階下から聞こえてくるのに、私と先輩がいる教室だけ、しん、としていた。

別の世界にいるみたいに。


「俺と付き合ってほしい」


先輩の声ははっきり聞こえたけど、私はぼんやりしたまま何も言えずにいた。

「……Aちゃん？」

足から力が抜けて、へなへなってしゃがみこんでしまう。

「うわ、わ。どした？大丈夫？」

先輩がしゃがんで私の顔をのぞきこんだけど、私は膝から顔が上げられない。

「……嘘みたい」

「嘘じゃないよ」

「だって先輩は大崎先輩が好きだったし」

「……うん。だからほんとはもうちょっと時間いるかなって思ってた。
こないだまで大崎先輩好きって言ってたのに、すぐAちゃんが好きって軽いやつみたいじゃん」

「そんな、軽いなんて、そんなことは思わないですけ
ど……」

どんな顔していいかわからなくて、私はまだ膝から顔をあげられずにいた。


「でも、Aちゃんもさ」

え？私？

「俺に初めて好きだって言ったとき、順番なんて全部すっとばしたよね」

あ、はい。

その通りです。

「だから、あれこれ考えなくていいかなって。
かれんに言われなくても、今日言おうと思ってた」

「先輩、私すごく嬉しいんです。嬉しいんだけど。
信じられないっていうか、夢見てるみたいっていうか」

じゃあ、って先輩がちょっとかすれた声で言う。

「どうしたら信じてくれる？」

え？どうしたら？

思わず膝から顔をあげると、目の前に先輩の顔があって。

反射的に目をつぶったら。

唇に何かやわらかいものがふれて。

それが先輩の唇だって気づいた時には、頭が真っ白になっていた。


「嘘でもないし、夢でもないよ。 Aちゃんが好き、だよ」


先輩の腕がのびてきて、私の肩に手を回すとそのままゆっくり抱きしめられた。


「……で。返事は？」

「……返事」

「付き合ってほしいって言ったんだけど。返事くれないの？」

もうなんか言葉にできなくて、私は黙ってこくこくうなずいた。

「付き合ってくれるってこと？」

「……はい」


先輩がすごく嬉しそうに、笑うから。


あ、これ夢じゃない、って思った。

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