呼んで呼ばれる ページ43
小十郎side
そんなつもりは無かった。ただ、猿飛の挑発に乗ってしまった。巻き込まれたアイツは挙げ句の果てに涙を浮かべる。
俺はどうしていいか分からず、アイツの涙を拭い、謝った。｢嫌だったか？｣と聞くと、首を横に振って答えるが、どう考えても、嘘だと思う。
俺はこれ以上関われないと思い、台所の前に立って手を動かす。出来るだけ心を無にして目の前の事をこなした。
アイツは微動だにせず、その場に立ち続ける。何も言わず、ただ俺の方を向いて立っていた。
やがて動き出すと、俺の隣で昼餉の支度を続ける。若干震えている手で包丁を持ち、食材を切り始めた。
前に教えたように、猫の手で食材を抑える。だが、とても危なっかしい。本当に手を切ってしまいそうだ。俺は手を止め、話しかけた。
小十郎｢俺が代わる。皿でも洗ってろ｣
A｢…お願いします｣
アイツは小さな声で言うと、包丁を置いて俺と代わった。そして沈黙。
会話ひとつ無い台所に響く包丁を使う音と皿のぶつかる音。すごく気まづい。
何か話した方がいいだろうか。でも、話したところでどうなる。自問自答が頭の中で繰り返す。
俺が悩んでいると、アイツから話しかけてきた。
A｢…小十郎さんは、『さん』付けて言われるの嫌ですか？｣
小十郎｢別に｣
A｢そうですか…｣
小十郎｢…｣
再び起こる沈黙。何か答えなければ。話さなければ。
小十郎｢…俺は名前で呼んだ方がいいか？｣
また同じ質問をしてしまった。答えは『お任せします』だったか。淡い期待を捨て、心の中で大きなため息をつく。
A｢…小十郎さんがいいなら｣
小十郎｢…！｣
予想だにしない返答。猿飛がいないからなのか？俺は驚きが隠せず、目を見開いてしまった。
アイツは遠慮がちに俺の顔を覗く。俺は少し顔を背けて呼んでみた。
小十郎｢…A、でいいか？｣
A｢…！はい｣
消えそうな声で返事をすると、口元を緩ませて笑った。今まで見たことの無い表情。俺もつられて自然と口角を上げる。
小十郎｢俺のことは好きなように呼べ｣
A｢はい、小十郎さん｣
まだ呼び捨てでは呼んでもらえなかったが、名前を呼んでくれただけで心が満ちていく。名前を呼ばれだけで満たされるなんて、俺らしくない。
少し自分の感情に戸惑い驚きつつも、得をした気分になる。今日の俺は何かおかしい。
俺とAは顔を見合わせてまた笑うと、再び手を動かし始めた。
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つる(プロフ) - 葦原 さくらさん» コメント、ありがとうございます！蒼紅、いいですよね〜！読んで下さっただけ、光栄の極みです！ゆっくりですが、頑張って更新しますね！ありがとうございました！！ (2018年5月24日 2時) (
レス) id: 5e578453d0 (このIDを非表示/違反報告)
葦原 さくら(プロフ) - コメント失礼致します。蒼紅推し、わかります。私は政宗様が推しですが、幸村も好きなので。とても楽しく読ませて頂きました。お忙しいとは思いますが、更新頑張って下さい。応援しております (2018年5月23日 15時) (レス) id: 1d858c77e8 (このIDを非表示/違反報告)
つる(プロフ) - 来兎さん» ありがとうございます！そう思っていただけて嬉しいです！頑張りますね！ (2018年4月22日 20時) (レス) id: 3957b1ebb1 (このIDを非表示/違反報告)
来兎 - とっても面白いです！更新頑張ってください！ (2018年4月22日 1時) (レス) id: a4dbc12876 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：東雲 | 作成日時：2018年4月16日 1時
