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「え、本気で言ってる!?」
遡ること数時間前、俺達は電車に乗って宿を後にした。そして今俺は………
……俺は、河村の実家の前に立っている
「…本当にごめん、でもどうしても会って欲しくて」
「いや、河村のご両親には会ったことあるし、会う分にはいいんだけど…」
問題は僕と彼の関係性だ。いくら彼のご両親がいい人だろうと、息子が職場の同僚と恋人関係でしかも相手は同性だなんてどう思われるか分からない
「…俺、河村のご両親に嫌われたくないよ」
俺は、大切な人の大切な人に嫌われて平気なほど人間辞めてない。胸をヒュ、と風が吹くような感覚に襲われる
「家には荷物取りに行くだけって言ってあるから、本当に嫌だったら言わなくて構わない。だけど、それは本当に心配いらない…むしろ逆というか…」
「逆?」
「あら!もう着いていたの?」
玄関の戸が開いて彼のお母さんが顔を覗かせた
「福良くんもいるじゃない。久しぶりねえ、大きくなった?」
「それは違うでしょ」
「ふふ、でも拓哉がお家に誰か連れてくるなんて初めてねえ。お母さん嬉しい」
2人とも上がって、と声を掛けてもらって中に入る。心臓が口から出そうだった。どうしよう、言うべきか、言わないべきか…
「拓哉は結婚相手しか家に呼ばない、とか言ってたじゃない?もしかして、福良くんと付き合ってるの?」
やばい、言う前にバレた。というか展開が早すぎるんだよ、と心の内で悪態をつく。着いてから5分の間に色々ありすぎだろ…
どうする?と不安気な河村がこちらを向いてくる。俺は……
「…挨拶が遅れてすみません。拓哉さんと、お付き合いさせていただいてます」
俺は、彼の大切な人に認めてもらいたい。この前は彼が俺の気持ちを汲み取ってくれたんだ、今度は俺が応える番の筈だ…!
「あら、やっぱり!そうだといいわねって丁度この前もお父さんと話してたのよ」
「言っただろ、むしろ逆だって」
「え、え?どういうこと…ですか?」
「ふふ。前に福良くんに会った時に、拓哉が見たことないくらい優しい顔をしてたから、何があったのかって聞いたら「彼は大切な人だ」って言うから。拓哉が福良くんと付き合ってたら良いのになって」
心が、じんわりと暖かくなった。お母さんの優しさも、彼が俺を「大切な人」だと言ってくれていた事。肩の荷が降りて、全身の力が抜ける。だが今はとても幸せな気持ちだ。今日はおでんだから泊まって食べていってね、とお母さんは終始笑顔だった
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時