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『………僕は、貴方を1人にしません』
彼の優しい声が聞こえた気がする
ああ、これは、一人で泣いた日の記憶だ。伊沢さん達はみんな元から知り合いだったから、俺だけ馴染めずに辛くて不甲斐なくて泣いていた時の、俺だ
『だから、沢山頼って、ぶつかってください』
ねえ河村、やっぱり俺は君に救われてばっかりだね
「あ、起きた」
「ん…今どこ?」
「丁度あと1駅で最寄り駅です」
「…長かったね」
結局今朝ご両親に見送られて俺達は彼の実家を後にした。「また来てね」の代わりに「幸せにね」と言ってくれた彼のお母さんに、心底感謝した
「ねえ、福良さん呼んでくれないんですか?」
「は?え?何を?」
「母の前では『拓哉さん』とか言ってたのに…僕に下の名前で呼んだ事ないのに、なんかムカつく」
「いやいや、さすがにあそこで『河村』だとややこしいでしょ」
「そういう問題ではない!」
腕を組んで「早く呼べ」というオーラを全開に出しつつ睨んでくる。いくらなんでも公共の場で口に出すのは気が引ける
「また、帰ったらそのうち呼ぶよ」
それで彼は納得したようでキャリーバッグを持ってドア付近に近づく。俺もその後に続いてパンパンに詰まったお土産袋を持って立ち上がる
「ありがとうね、拓哉」
物凄い勢いで彼が顔を赤くしてこちらを向くから笑ってしまう
幸せだな、と思った
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時