◎ ページ28
メニュー表を眺めることに夢中になっていたせいで、客が入って来ていたことに気付かなかった。
びっくりして振り返った所にはキャップを被った背の高い男性がこちらに歩いて来ていた。
慌てて背筋を伸ばしてカステラとあんドーナツが美味しそうだ、と緩んでいた頬を引き締めてかしこまる。
あんな知り合い見たことないし、私が仲が良いと思える友人のような存在はいない。
こちらに歩いて来たかと思えば、その男性は私と同じテーブルに腰かけた。
｢……えっと？｣
｢黒蝶Aやろ？傷、大丈夫？｣
｢…………何故傷の事を知っているんかぇ｣
明らかにおかしい。
私が傷付けられたと言うことは
｢！もしかして、紅桜──｣
｢そうそう！気付いてくれた！？帽子かぶってて分からんかったやろ！よう気付いたな！｣
最早、浦島坂田船の四人と話す時に遊女としての掟だなんて無視しろ、と言われてしまうのがオチだと分かって来たのでもうその掟のことは忘れて彼と話すことにする。
紅桜花魁は黒いキャップを被っていたので、彼特融の赤い美しい髪の毛が隠れてしまっていた。
そのために最初は彼が紅桜花魁であると言うことは分からなかったが、志麻さんの言葉を思い出して気付くことができた。
｢飯食う前に、この鎮痛剤飲んどった方が楽になるやろ？坂田がこっちに寄越してくれたんや｣と言う志麻さんの言葉を思い出した。
私が青行燈に腹部を刺されてしまった際に送られた薬は紅桜花魁によるものだったのだ。
｢この前はほんにありがとうございんした。お陰で通常よりは治りが早うとて感謝していんす。お礼に何かご馳走しんすから、好きなだけ頼んでくれんせん？｣
｢ああ、お礼ならええよ！俺その為に薬学とか勉強しとったし、遊郭を守ってくれただけでおつり返ってくるぐらいのことやから｣
｢やけど、｣
｢ええから！お願い！俺がしたくてしたことなんやし、女の子に遠慮なんてさせたく無いねんて！分かってくれよぉ〜！｣
お願い〜！と顔の前で手を合わせる紅桜花魁の姿に渋々了承する。
そこの無い明るさと優しさに心が揺らいだ訳では無い。
久々に、久方振りに、数年ぶりに、十数年ぶりに。
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ちょこ - この作品好きです！続き楽しみに待ってます！ (2022年3月9日 2時) (
レス) @page40 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
露(プロフ) - すごく好きです…いままでこういう系統の作品や生々しい部分に触れるものは読んでこなかったんですけど、設定や世界観がすごく凝っていて引き込まれてしまいました…！更新、楽しみにしています！ (2022年2月19日 9時) (レス) id: ecc7bc2fb7 (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - 緋鞠さん» 廓言葉褒めて貰えて嬉しいです（；；）本当に有難いです（；；）めちゃめちゃ嬉しいです本当にありがとうございます！ (2020年4月5日 1時) (レス) id: 7dc015f2ad (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - 呉羽さん» コメントありがとうございます。更新頑張ります！本当にありがとうございます！ (2020年4月5日 1時) (レス) id: 7dc015f2ad (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - ルイさん» 世界観に拘ったのでそう言ってくださって凄くうれしいです、ありがとうございます！ (2020年4月5日 1時) (レス) id: 7dc015f2ad (このIDを非表示/違反報告)
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