聖夜 7 ページ21
味方を裏切ったとはいえ、敵に捕らえられている衛生兵が不安だが、そんな些末な事など忘れてしまう出来事が起こった。
タラサ「感染症⁉」
予想もしない事態に、軍医は僅かばかり気を乱した。敵と味方の軍隊が、病で倒れていったのだ。
タラサ「症状は?」
調査によると、嘔吐と下痢、身体の震え、悪寒、腹痛と頭痛、激しい咳と高熱だが、酷い場合は呼吸困難を起こし、死に至ったという。
「こんな症状は、聞いた覚えがありません」
タラサ「くそっ...!衛生管理は怠っていなかったのに、どうしてなんだ⁉」
思案におぼれる前に、兵士達を襲った病を治癒する事に、精力を注がなければならない。タラサは、命令した。
タラサ「今すぐ、看護師と医師を全て要請しろ‼被害を最小限に止めさせるんだ‼」
間に合わせに造られた牢屋で、もう1人の軍医は、周りの情勢を読み取っていた。幸い、閉鎖された空間なだけあって、誰も感染症という荒くれ者に倒れている者はいなかった。
ゲオルグ「やれやれ...」
深く息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
ゲオルグ「呉越同舟だ。僕も協力したがっていると伝えてくれないか?」
近くにいた護衛の兵士に、用件を伝えた。
「駄目だ。敵の医師が、我々を殺すんだろう」
ゲオルグ「たわけが。生きて帰れたら、たかが病でオロオロしている軍人達がいたと、言いふらしてもいいんだな?」
ゲオルグは、悪魔のような意地の悪い笑みを浮かべた。相手は、銃で彼を殴りつけた。
ゲオルグ「全く...自分や戦友の命が消えるかもしれないというのに...。とんだ頑固者だな、君達軍人は!」
呆れを通り越した、微かな怒りを露わにした。
再び腰掛ける。
ゲオルグ「だから、こちらに行きたくはなかったんだ。大人しく好きな事に研究していれば、良かった...」
こっそり持ってきていた小さな写真。場所の所為で、すっかり色が落ちていた。
ゲオルグ「アイリス...」
写真に写る絶世の美女の彼女は、こんな自分を健気に待っている。口では、全く心配しないと言っていたが、心の中では反対の事を思っている。すぐに仕舞うと、溜め息を吐いた。
ゲオルグ「戦場で戦う者が、最も恐ろしいと思うのは、戦友が目の前で死ぬ事でも己の死でもない。いつこの争いが終わるのかという、先の見えない大いなる不安だ」
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ルツ(プロフ) - レジスタンスさん» 本当に恐ろしい話でした(笑) (2017年12月15日 12時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)
レジスタンス(プロフ) - うわあ、でもケルマの言葉をよく見れば気づけるんですよねえ……恐ろしい(笑) (2017年12月15日 12時) (レス) id: 2d55fe83e4 (このIDを非表示/違反報告)
ルツ(プロフ) - レジスタンスさん» ふおお...お厳しいご意見、確かに私でも、新聞記者のイレックスに次いで、殺し屋には彼は向いてないと思わざるを得ないと、時々思っているのです。色んな意味で、優しさが捨てる事が出来ないみたいで;^_^A (2017年12月11日 17時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)
レジスタンス(プロフ) - まあ、政府の為とは言え彼がしてきたのは立派な殺人であり、娘がその事で色々言われるのは当然の事で、娘に発覚する事を恐れているようではタラサに殺し屋になど到底向かない……と思ってしまいました(´・ω・`) (2017年12月11日 16時) (レス) id: 2d55fe83e4 (このIDを非表示/違反報告)
ルツ(プロフ) - レジスタンスさん» ありがとうございます!(^ω^) (2017年12月8日 15時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)
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