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冥府の悪霊達 16 ページ16

おぼろげの世界に、声が聞こえる。自分の名を呼ぶ声。どこか懐かしく、そして憎らしかった声音。夢の外から聞こえる綱をたどたどしく掴んで登る。

パーシアス「...ん...」

うっすらと目を開くと、見覚えのある千草色の狼の女性が映った。繊細で美しい母が。

パーシアス「っ...!」

反射的に飛び上がると、彼女から数歩離れた。
湧き上がるのは驚きと戸惑い、悲しみに怒り、いや全部だろう。そんな複雑な顔を見た彼女は、伏し目がちの悲しげな顔になった。

パーシアス「母さん...⁉」

思わず呼んでしまった。母のワインレッド色の瞳は、やっと前に向いた。悲哀に潤んでいて、頬には涙の線が残っている。まぶたも腫れている感じだが、歳と死装束は死んだ日そのままだった。

「パーシアス...」

呼びかけられたその名に、自分の母だと確信した。吐息が変な感じだ。リズムよく呼吸しているはずなのに、胸の底から異物がはい出てくるような痛みを覚える。

パーシアス「お袋...」

再会に喜ぶよりも、この複雑な感情の濃さの方が優っていた。パーシアスは一歩後退する。近寄りたいのに、縋りたいはずなのに、無意識下の恐怖がそれを引き戻す。それを見た母は当然の事だと察した。

「パーシアス...。分かるわ、貴方の気持ちと貴方が今言いたい事が...」

パーシアス「...」

「お母さんが、怖くて堪らないのね?......あんな事をしたから許せるわけがないでしょう...。その気持ち、応えなきゃいけないわ」

そう言うと、静かに立ち上がる。母も息子から離れようと背を向ける。

「貴方の為に、私は退くわ...」

儚げな顔を浮かべ、次の言葉を言おうとした彼女を遮るように、パーシアスは叫んだ。無意識のうちに。

パーシアス「おい‼」

「...!」

少年は、再度叫ぶ。

パーシアス「俺は、捜してたんだぞ!...言いてぇ事あったのに、会った途端逃げようとしやがって‼大した事言わねぇで、またあの時みたいに逃げようっていうのかよ⁉」

その口調は、怒りとも憎しみとも哀願とも取れる響きだった。そして、微かな口調で言った。

パーシアス「...馬鹿だよな。化け物の俺が、母親の本心無視して、呼び止めるなんざ...。本当は今も、親父や妹も...俺を怖がっているはずなのによ...」

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ルツ・ヒューイット(プロフ) - 新藤息吹さん» ありがとうございます!アンテをもしやるとしたら、ずっと平和ルートばっかすると思います(笑)フラウィー戦もヒーローアンダイン戦もやりたい気持ちはありますが、やりたくないです(笑) (2018年11月17日 21時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)
新藤息吹(プロフ) - 面白かったです!見事にUndertaleにハマりましたね… (2018年11月17日 20時) (レス) id: 4a72550ddd (このIDを非表示/違反報告)
ルツ・ヒューイット(プロフ) - すぐ終わるかもしれない話です(笑)一応、ホラーチックな(?)ストーリーになります。 (2018年11月14日 22時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)
新藤息吹(プロフ) - 面白かったです!体を温めてゆっくり休んでくださいね! (2018年10月26日 18時) (レス) id: 4a72550ddd (このIDを非表示/違反報告)
ルツ・ヒューイット(プロフ) - 訳ありまして、私ルツは...『ルツ・ヒューイット』というペンネームに変えます。呼び方はこれまで通り『ルツ』で大丈夫です! (2018年10月13日 18時) (レス) id: 62681feacb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ルツ・ヒューイット | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2018年9月5日 21時

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