＊７３＊一人称の変化 ページ32
――――――と、空気を切り裂く携帯の着信音。
『あ…まふくんからだ』
私が携帯の受話器ボタンを押す。
―――――と。
「貸して」
『えっ』
するり、と私の手から天月さんが携帯を取り、耳に当てた。
ど…どうし…
「A―――――――――――-っっっっっ！！！！！無事！？」
『っ！』
「っ…まふくん、声、大きい…っ」
携帯から耳を離す天月さん。
そ、そりゃそうだ。
携帯に耳を当てていない私にも聞こえる大声だったもの、耳元で聞いたらどれだけ大きかったんだろう。
「って、あれ…天月！？」
「うん、“俺”」
――――――――――――……ん？
天月さ…違う、天月くんの一人称って“僕”じゃなかったっけ…？
首をかしげる私に、天月さんは悪戯っぽく笑う。
「…ねえ、Aそこにいる？」
「すぐ隣に」
「帰ってきて今すぐ帰ってきてAつれて帰ってきて今今今今今今今今ッッ！」
「Aつれて帰っていくなら？」
「今でしょ！」
二人の電話越しのやりとりに、思わず吹き出す。
そろそろ帰るのかな。
そう思い、天月さんを見ると。
「やーだね。俺、これからAとデートだもん」
「はぁあああああ！？」
「じゃあ、夕飯までには帰るから」
「ちょっと待って認めない！」
「あとでねー」
天月さんはふざけたようにそんな言葉を吐き、一方的に電話を切った。
あー、そっかそっかデートか。
それなら今から帰れないよねー…
……ん？
…………………………でぇと？
…………………………は！！！？？？
ちょっと待ってちょっと待ってむしろ待て！
『え、あ、天月くん…！？』
「何？ほら、行くよ」
『じゃなくて、デートって…！』
普通に手をとって歩き出そうとする天月君をなんとか止める。
すると、天月君は年相応の、楽しそうな笑顔を浮かべて。
「だって、俺Aのこと気に入っちゃったんだもん」
『…！』
ひらひらと舞う桜をバックに、とびきりのかっこいい青年がそんな台詞を言う。
私に向かって。
それだけで卒倒しそうだっていうのに、天月君は最後の一押し。
「俺が“素”出す子って、なかなかいないんだよ？」
…ああ、もうそんな言葉。
『…天月くんって意外とずるいですよね…じゃない、ずるいよね』
「それ、褒められてる？」
真っ赤な頬は、きっと彼にはお見通しなのだろう。
私は、“デート”という言葉を意識しないようにと心に誓い、天月くんについていくことにした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 706人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しぃ - この作品の空気が大好きです！これからも更新頑張ってください！ (2017年1月23日 2時) (
レス) id: b6bffe2f4c (このIDを非表示/違反報告)
kai - イケメンか！みんなイケメンか! うわぁぁぁ！ (2016年5月9日 17時) (レス) id: 9a244b794f (このIDを非表示/違反報告)
ミャン(プロフ) - さやえんどうさん» レスありがとうございます。楽しみにしてます。 (2014年7月6日 14時) (レス) id: 3df0169470 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ミャンさん» うわああ気づかなかった・・・！レスものすごく遅れてごめんなさい！ えーっと、それはものすごい後の伏線になってますね・・・！お楽しみに！ (2014年7月5日 22時) (レス) id: 6ce064ce99 (このIDを非表示/違反報告)
ミャン(プロフ) - 68の最初のところでそらるさんは何を撮ったんですか？ (2014年2月11日 14時) (レス) id: 8abaadbd6f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
