◆1話◆ ページ4
「はぁ……」
それは高一の金曜日の放課後のこと。
私は靴を履いたものの、校舎から一歩も踏み出せずにいた。
空一面の厚い真っ黒な雲に、たくさんの大粒の雨。
こんな土砂降りの中、傘もささずに帰れるわけが無い。
朝、天気予報も見忘れちゃったから傘はもちろん持ってきているわけない。
運良く、折りたたみ傘がバッグに入ってないかなって確認したけどノートとテキストとペンケースしか無かった。あと、イチゴ味のキャンディ。
「はぁ……」
二度目のため息が零れた。これは、ケータイを持ってくるのを忘れたから。
家を出る時、お母さんが何か言ってたのを聞いてなかった。
多分、スマホを忘れてるって言ってたんだと思う。その時は遅刻しそうで、何も聞いてなかった。
あーあ、今日はホントに運が悪いな。降り止むまで待たなきゃいけないなんて。
こんな時には、ちょっとイケメンな男の人が傘を貸してくれるっていう想像をしながら待とうかな、なんてね。
「君、傘持ってないん?貸そか?」
そうそう、こんな感じ。……って、この人、幻なんかじゃないよね?
全く知らない人だけど、同じ制服を着ているからこの学校の人だ。
「えっ……と、あ、ありがとうございます……!」
焦っているのがバレたくなかったから、平然を装って応えてみる。顔が少し暑い。
相手は全く気付いてないみたいで、
「俺、傘一個学校に置きっぱなしやったんやけど、役に立ってよかったわ!」
って言って、走って行ってしまった。
その時の笑顔に、ズキュンと胸がなったのが恋の始まりだと思う。
「……って事があって、ずっと好きなんだよね〜」
ほっぺを赤くして、緩んだ表情で私は友達の棗に言う。
やれやれという表情で、はぁ……とため息をついた棗は
「でも、それ以来話すどころか姿も見れない……と」
全てを分かりきったような返答をした。
そう、私、Aはあれから一年、高二になった今でもあの人の姿を見れずにいる、こじらせ系女子なんです。
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作者名:サワー&咲-saki x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2019年10月9日 23時