【歌い手】シェアハウスでの日常。season13

＊４２４＊先が見えないの ページ8

ふぅ、と息をついた天月くんの肩に、アンさんがぽんと手を置く。
そして、ふわりと微笑んだ。


「お疲れ様天月くん、ここから先は俺が話すね」
「お願いします」


こくりと頷いた天月くんは、カップを持ち上げて中の飲み物を飲み干す。

アンさんは、空気を変えるように明るい声で。


「えっとー、じゃあなんでしゃむくんがいなくなっちゃったかの考察をのべたいと思いまーす」


…が、あまりに不釣合いな声だったので灯油さんに横から小突かれていた。
アンさんは頬をゆるゆると緩ませて「えへへ、ごめんって」とおどける。


この二人が、たぶんこの中で一番動じていない。

さすがだな、なんてそんなことを思ってしまった。


アンさんは続けた。

「しゃむくんから、相談は受けてたんだ。…最近しゃむくん、ライブにも出るようになったでしょ。お父さんから、シェアハウスを出ろってメールが何通もきてたみたいで。
…なんかあったら言えって言ってたんだけど、遅すぎたかな」

寂しそうに笑うアンさん。
その肩を、ぽんぽんと元気付けるように灯油さんが優しく叩いた。

アンさんは「ありがと」と微笑みかけて。


「よし！じゃあ、どうするかは明日考えよう！とりあえず今日はここまでにしない？グダグダしててもしょうがない！
夕飯はさ、今日はピザとろうよ。俺トマトのやつ食べたい！」


重苦しい空気を弾くようなアンさんのはつらつとした声。
その声につられて、私たちも笑顔を浮かべた。


誰も、心のそこから笑ってなんていないかもしれない。
不安で、本当は笑う余裕なんてないかもしれない。


けれど、私たちはできる限り“いつもどおり”にすごした。

しゃむ君がいない寂しさを、埋めるように。


どうしようもなく重苦しい空気を、


先への不安感を、払拭するかのように。

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