23時のインターホン [前編]【夏油傑】

40日目 ページ40

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夏油はご機嫌だった。





最近毎晩、決まった時間に鳴るインターホンに隣人はなにかに気づいたような視線を送ってくる



が『絶対に来るな』と釘を刺していればへーへーと舌を出して不服そうにするが、突然訪ねてくることはなかった。




親友のこういう察しのいいところは助かる。




全てが成就する日も近いだろう、その暁には悟にも晴れて報告してやるよ、と


今宵も夏油はAの到着を心待ちにしながら、彼女の好きなフレーバーのお茶を選び香気を部屋に漂わせていた。










夏油の部屋へと場所を移した二人の秘事。



Aから眠れなかった、と言われることは無くなっていたが、二人は毎晩のように顔を合わせアロマやお茶を楽しみリラックスした時間を過ごす。


夏油は意図してAの身体に触れる事を減らした。


マッサージやストレッチなど彼女から頼まれればもちろん応えた。が、最低限の接触に留めた。






それもこれも全て。あの日、僅かに警戒を見せた彼女を油断させるため。


このあと彼女に覚えさせる快楽にとことん溺れさせ抜け出せなくするため。





何か言いたそうに視線を送る彼女を友人のように気遣っては、別れ際、一秒にも満たないハグをして部屋まで送り届けるのも、昨日まで＿＿＿











『……もうこんな時間だ、部屋まで送るよ』


「あ、……ほんとだね」




しゅんと下がる眉が夏油の胸を切なくする。そんな顔するなんて、本当ずるい。



あ、そうだA、と使ったカップをシンクへ持っていく彼女の背中に声をかける。





『私のジャージ、最近見当たらなくてさ、』

「ｯｯ………!!」

『……どこか、知らない？』





Aはカップを持ったまま、置くわけでも洗うわけでもなく壁を向きその場で固まっている。




『……どうしたの？』

「えっ、あの、私ッ…」

『教室に置いてた、までは記憶にあるんだけど。悟が持ってったのかなぁ…』

「あ、……えっと」




明らかに動揺した様子の彼女に一歩一歩夏油は、近づく。



未だこちらを見ないAのむき出しのうなじを見つけた夏油は、そこへゆっくりと顔を近づけた。








『あれ？気の所為かな。Aから私の匂いがする気がするんだけど、………ねぇ、どうして？』








後ろから見るAの小さな耳は、可哀想なほど真っ赤に染まっていた。



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