98話 ページ1
「そんな…信じられないっス…」
「風丸君が、イナズマキャラバンを降りた…?」
「風丸さん…」
あまりの衝撃に壁山が持っていたサッカーボールを落とした。鬼道が再確認のように本当かと尋ねると「ええ、すでに東京に戻ったわ」と返す瞳子。
「サッカーへの意欲をなくした人を引き止めるつもりはないわ」
秋が昨日のような剣幕でどうしてと詰め寄るとそう言う。「私はエイリア学園を倒すためにこのチームの監督になったの。戦力にならなければ、出ていって結構」と続けた。
「ああそうだったな!あんたは勝つためだったらどんなことでもする奴だもんな!!吹雪が二つの人格に悩んでいるのを知りながら、試合に使い続けるくらいな!!」
「…練習を始めなさい。空いたポジションをどうするか考えるのよ」
戦力にならない、という言葉が土門の癇に障り怒鳴るも瞳子は何も言わずに、いつもどおり指示を出すと去っていった。
「私、風丸君は帰ってくるって信じてる!」
「私もです!」
秋と春奈を見て頷いた鬼道。
「始めるぞ、練習」
「でも…」
「俺たちがサッカーをするのは、監督のためじゃない。円堂がいつも言ってるだろう。サッカーが好きだからだ!サッカーを守るためにも、エイリア学園に勝たないとな」
そう言って練習を始めるためにボールを取りにいく。その言葉に表情を明るくさせた雷門イレブンは、鬼道に続いて練習の準備をしにいくのだった。
「円堂君」
いつもなら率先して皆を鼓舞するのに、と秋は疑問に思いながらも壁山の落としたサッカーボールを拾い、円堂に差し出す。
「練習、できない」
しかし、円堂はそれを受け取らず押し退ける。そして静かにそう言った円堂に、全員が驚いて振り返り彼を見た。
「どういうこと…?」
「今の俺は、サッカーと真正面から向き合えない。ボールを蹴る、資格がないんだ。だから、それまでボールを預かっておいてくれ」
マジン・ザ・ハンドを習得できず自棄になっていた頃よりも、ずっと暗く沈んだ表情。吹雪の葛藤に気付けず、基山がエイリア学園の生徒だったということも見極められず、風丸に手を差し伸べることもできずに、失ってしまった。助けられなかった、見抜けなかった、分かってあげられなかった自分が憎くて、情けない。
「…すまない円堂。俺、お前みたいに強く、ないんだ」
「何も、見えてなかった」
雨が、降り始めた。
372人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:不二市 | 作成日時:2018年4月9日 0時