【殺人教唆2】(ヤス)

嘘 ページ10

３人の中で１番穏やかそうに見えた堺雅人。しかし、この中でもっとも怒らせてはならない人物なのかもしれない


『わぁ〜ったよ。外で吸えばいいんだろう？』


ゆっくりと佐藤浩市は立ち上がり、面白くなさそうにタバコが入っている胸ポケットを触って言い放った


『ったく、喫煙者にとって嫌な世の中になったよなー。こっちは高い税金払ってるっていうのによー』

『威張るとこじゃないですよ』

『だって信じられるか？国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税、消費税！この4種類もあってだなー！そんな払ってるっていうのに、飲食店全面禁煙にしましょうだ？どうなってんだ！おかしいだろ！だいたい……』


佐藤浩市が堺雅人に喫煙者の肩身の狭さや生き様などを説明しはじめ、どんどんヒートアップして手におえなくなった頃……


先程私を助けてくれた渋谷すばるが私の肩に右腕を置いたかと思えば、そっとUSBメモリーを渡してきて『さっきの約束……守れよ』と一言、２人に聞こえない様に呟いてきた


手の中にあるUSBメモリーは、なんだかとても冷たく、私にはほんの少しだけ重たく感じた


目の前にいる呑気な父は、無邪気な子供がそのまま成人になった様な人で、『悪』という字からは、ほぼ無縁のタイプ


昔から【嘘】をつくのも下手な人……


『今日私の誕生日やからって、みんなでカラオケ奢ってくれるって！そやからちょっと遅くなる』

『……あぁ、そっかー。ちょうど良かった！お父さん仕事やし！遅くなりそうやし！！うん……ほんなら楽しんどいで！そやけど、一緒にケーキは食べよなぁ」


ちょっと残念そうな顔で笑った父


『いってきまーす』


部屋の方に向いている父の靴を扉の方に向かせ、私は家をあとにした


なんとなく私はおかしいと思いつつ、それでも友達を優先して楽しい一日を過ごした


帰宅すると、父の靴は朝と同じ方を向いて玄関にあった


ソファーにゴロンと眠る父の周りには、私の小さい頃のアルバムが散乱していた。そして無造作に置かれた携帯と小さな箱が一つ。小さな箱には、ハッピーバースデーのリボンがしてあった


ブランケットを父に掛けようとすると『ん…A…』と父が起きてしまった


私の姿を見て焦りながら『お父さんの方が帰んの早かったなぁ。それ、Aの誕生日プレゼント』と言って、恥ずかしそうにアルバムを片付けだした



父は私に嘘をついた



そして私も……『仕事遅くなる言うてたやん？』父の嘘が分かっていたのに……

メッセージ→←目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す