恒風じゃないと落ち着かないんだ ページ7
夜の重い心身を引きずりながら歩いていると、前からいつもの微風がふわりと自分の前から舞って来た。それにつられて顔を上げると、片手を上げているウェンティが見えた。
「ゴメンね、結局1人にさせちゃって……これからは、ボクと君しかいないであろう場所に連れて行くから」
少し心細くて、彼に手を握られ連れられるままにモンドの高所で崖っぷちの星拾いの崖へと向かっていた。セシリアの花が咲いて、夜風に背丈の短い草と共に揺れていた。
「ここかな、ボクの好きな花も咲いている場所だよ。君がさっきから大事そうに抱える良い匂いのする袋の中身を、一緒に食べよっか?月見で一杯できないのが非常に残念だけど……まっ、Aと2人だけだから無問題だね」
さっきまでアカツキワイナリーの酒場にいたが、もう居心地が悪すぎて帰りたいと何度も思っていた。その時にオーナーのディルックに、テイクアウトを頼んだら構わないと言われた。だから、2人分の料理を買ってさっさと出た。
何で2人分買ったんだと思い、横でテイクアウトしたムーンパイを頬張る昔馴染みの存在を見詰める。丁度ムーンパイを全て食べ終えた様子で、ふと目が合う。
「ん?ボクをじいっと熱烈に見てるけど、まさか見惚れちゃった?えへへ、恥ずかしいな」
ちょっと茶化すように言われて、それはないと即答で断言した。すると、むくーっと膨れた。
「せっかくのムードをAに壊されちゃったな……あーあ、どうしよっかな」
蒼と翠が混じった瞳で、少し期待している様な眼差しで見る。こっちにアクションを求めるようで、少しうざったいので自分のムーンパイを頬張る。さくさくに焼かれた生地の中に、漬けられて程々に柔らかく同じく焼かれた肉もその汁が堪らなく美味しい。思わず緩む頬を押さえていると、真横に真ん丸な眼差しがちらりと映り込む。
「ふふふ、可愛い顔を見付けた。だから、その顔をいっぱい見せたら許してあげる」
わたしの頬に手の平を這わせる。そのまま彼の方に向けられ、端正な顔立ちの少年と目が合う。真ん丸の瞳を細め、やや嬉しそうな口元を作る。
「やっぱり君には笑ってて欲しい。昔は泣き虫だったけど、今は色んな愛くるしい表情をいっぱい見せてくれてとっても嬉しいんだ。だけど、笑顔が1番。だから、できればずっとその顔を見せて欲しいな……他の誰でもない、Aに頼むんだ」
多分、わたしも笑顔を作る理由が欲しかったのかもしれない。だから、ウェンティに向かって頷いた。
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