枯れた心に現る強風 ページ6
目が覚めると、ウェンティがとても近くに見えた。ぼんやりしていたが、彼と体が密着していると気付いて、手をじたばた動かして暴れてしまった。
「おっとっと！おはよう、よく眠れた？」
自分より少し小さいくらいの少年サイズの神様に、お姫様抱っこをされるなんて夢にも思わなかった。今より小さかった頃は、彼におんぶをしてもらって空を飛んだり一緒に空を飛んだりしたことはあった。しかし、今昔は比べてはいけないと戒めをしなければ。だって、角も翼ももうない。
「悪いことしてないよ？モンドで美味しいお酒を飲める場所を紹介したいだけだよ？ちゃんとご飯食べてる？こんなに軽いと不安になっちゃうよ」
この神様の扱う武器は弓だ。弓は腕の力が無いと意味が無い武器で、それによって培われた力でわたしを抱き上げるのは造作もないのだろう。わたしは魔法系の武器だから、全然違う。
しばらくそのまま歩いていたが、時たま出会う人たちからは異様な目で見られる。
「ここだよ、アカツキワイナリー！ツケはいっぱい作っちゃったけど……ま、可愛いAもいるから許してもらえるね！」
食い逃げの共犯をされそうで、降ろされた瞬間にウェンティから離れようとした。しかし、許さないと言わんばかりでわたしの腕をがっちり掴んで密着してくる。
「こうしてると本物の恋人みたい……あそこ、行こうよ！」
彼に連れられ着いた店の先で、赤髪を後ろに結った青年がわたしたちを見下ろした。同じく赤い瞳で、鋭い目付きを向ける。
「ようこそ、無銭飲食殿。連れの方もそのような無作法なことをしないよう祈るよ」
「い、イヤだなぁーボクがそんな無礼なことする訳ないじゃん」
「過去に何度も無銭飲食をした相手に、その発言を信用できると思えるのかい」
目の前の赤い青年から、過去に何度もされたことを示唆するような発言をされる。本当に何やってんの、神様なんだからモラくらい持ってなよ。わたしですら持ってるのに。
そう思いながら、拾ったり魔物を倒したりして手に入れたそこそこのモラが入った袋を見せる。
「連れの方だけどうぞ、無銭飲食殿は入る資格は与えないでおこう」
「ヒドイ！ボクにはウェンティって名前があるのに！」
後々青年はディルックと名乗って、席に案内された。しかし、大勢の酔っ払った人間たちに囲まれて飲食どころではなく、味がしない程に混乱してしまった。だって昔見たイヤな人たちみたいな人たちが交流しようとしてくるから、とても怖かった。
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