あなたと好風を受けていたい ページ31
ウェンティとモンドのホテルから出たのは、翌日の朝だった。
ずっと2人きりが良いと言われ、仕方なくずっとホテル室内に誰も入れずに2人だけで過ごした。その間ずっと真横にいて、わたしからひと時も離れなかった。そして、何故かお風呂まで一緒に入ったから最高にカオスな状態で恥ずかしくてたまらなかった。
「雪山に戻ってもボクたちだけだね、なんて素敵だろうか」
確かに色んな人たちが出たり入ったりしてきているので、彼と2人きりは珍しいことだろう。
「そうだ、今から2人で旅に出ない?この世界の優しさと美しさを知って欲しいし、何より君と旅をするのが夢だったんだ」
絶対後者の方が理由として大きいだろうけど、旅をするという理由が前者として存在しているのがわたしの精神的にも良いだろう。だって、今まで優しい人たちをいっぱい見たから。それに、この洞窟だけでなく一時的と言えども外をふらついた時に見た綺麗なものをもっと見たいから。
「その顔だと、ボクと旅に出ることに積極的な気持ちになってくれた?えへへ、嬉しい」
わたしの手を取り、嬉しそうに顔を綻ばせる。好きな人がそんな顔をしていたら、わたしも嬉しい。
「やっぱりAは笑顔が一番似合うよ、一番好きな顔。ずっと見ていたい、色んな君との想い出をいっぱいいーっぱい作りたい」
両手を握られ、指先を絡めとられて固く繋がれる。手の甲どうしはぴったりくっ付いて、温かくて大好きな柔らかい手。
「ずっとこのままが良いな、繋がったままで気持ち良くて……良いかな、またキスしたいな」
ホテルから出る前は、散々したくせに。そして、唇以外のところにもたくさんしたのに。もう分かんない人だ。それでもわたしも欲しいので、彼の唇に自分の唇を一瞬だけ押し付ける。
「―――え、っ!?君からキスしてくれたの?わあ……すごく嬉しい。もっとして?」
もっと近寄って来て、キスをねだられる。もう流石に恥ずかしいので、逃げようと顔を背ける。
「2人して何をしている、彼女が嫌がっているだろう」
「べっつにぃ、そんなことないよ。恋人としてじゃれ合っているだけだよ?さっき、ボクにキスしてくれたし」
「な、何だと?」
セノが目を見開いて、わたしに言葉を求める。本当のことだとはにかみながら頷くと、半裸の少年は少しショックを受けた様子だ。
「そうか……しかし、俺にも機会はあるだろう。諦めん」
「え?普通、諦めるよね?」
旅に出ることは黙っておこう、付いてきそうだから。
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