ただ一人の為の時つ風 ページ4
趙と少し会話をしてからドラゴンスパインに戻ると、ウェンティが麓にいた。しかも若干不貞腐れているようで、軽く頬を膨らませている。
「ボクに内緒でどこ行ってたの？」
杏仁豆腐を食べに璃月に行っていたと包み隠さず言えば、彼は目を思い切り見開いて驚いていた。そして、また不貞腐れた表情になって「まさかまさかだけど……君の数少ない友達の1人の仙人に会ったの？」と付け加えた。隠す必要は無いので頷くと、明らかに不機嫌を表情に表した。
「もうっ、何で誘わなかったの！ボクもAとのんびりじゃれ合いつつ、恋人のように仲良くしたかったのに！」
両手を思い切り上げて、両手をきゅうっと握る。歯が浮くようなセリフだけど、まさか怒気をやや含めて言うとは思わなくてちょっとだけ驚いた。いつもはお茶目な様子で言っているから、この豹変ぶりには驚くしか感情が出なかった。
「今度から言ってね？ボクは君と、自由にテイワット中を旅をするのが夢なんだから」
ぷくーっと頬を膨らませたままで、少しそっぽを向いた。許していない様子で、彼があまり怒った姿を見たことがなかったのでどういう対応すれば良いのか分からない。不機嫌な様子で目を若干尖らせているウェンティに、どうすれば許してくれるのかと訊ねていた。
「そっか。じゃあ、仲直りの―――ね？」
急にいつもの穏やかな真ん丸で大きな瞳に変えて、唇に自身の指先をとんとんとつつく。仲直りにキスをしろと言っているみたいで、急にさっきまで心配していた自分がアホらしく見える。気にしていないと思える程に表情の変化が激しかったのもあるし、下心がちらちら見えているせいだ。
少し期待している様子の彼の横を通り抜け、そのままドラゴンスパインの最奥に向かう。
「してくれないんだ？へえ……じゃあ、ボクからしちゃお」
急に目の前に自分よりやや背丈の低い少年が現れ、ばっと近寄った。眼前には彼の顔が広がり、唇の横に柔らかい感触が当たった。驚いて、離れて嬉しそうな顔のウェンティを見詰める。
「えへへ、仲直りだね。ちょっとずれちゃったけど、許しちゃう」
「ちょっと甘いけど、杏仁豆腐かな」と飄々とした表情で続けた。ここでようやく、彼に唇スレスレの位置にキスをされたと気付いた。急に顔が熱くなって、目の前で嬉しそうな彼を跳ねのけて白い大地に足を進める。
「ホントはね、ちょっと嫉妬しちゃった……他の人と仲が良い君を考えるだけで、おかしくなっちゃいそうだよ」
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