気が付くと迫る追い風 ページ26
「へえ、ファデュイ共に目をつけられてたんだ。ご愁傷様、僕には関係無いけど」
元ファデュイの放浪者に労わられているのか、興味なさげに聞いているのか分からない。雪山に帰って来て、ウェンティが帰って行った後のことだった。
「ところで、何であの大マハマトラが入り浸っているんだい？ますます雪山に変な噂が立ったよ」
一体どういう噂なんだ。おそるおそる聞いてみると、「意中の相手に逢いに行っているとか、魔性に駆られているとか。大方間違ってないね」と言われる始末。本当だけど、後者は知らない。
目立つ格好であり目立つ存在の人が雪山に入り浸るなんて、確かにそうなってもおかしくないと思い至る。
「風神も許容しているみたいだし、どういう風の吹き回しだろうか」
風の神様に風の行方を聞くのは得策だと思うけど、彼は何故かわたしに聞いてくる。何でだろうか。
「神は嫉妬深い、気を付けないと取り込まれる結末になるよ」
確かに最近はそういうような言動が増えている気がする、最近は何故かそれが嬉しいと感じている自分がいる。絆されてるのか毒されているのか、感化されているのは同じ。
「満更でもない、か。誤魔化さなくとも、今の言動を見れば一目瞭然」
バカにされたような表情と目線に、自分の顔を押さえる。
あれ、そんなことあったっけ？わたしって、ウェンティのことを全部許容したいって思ってるの？あれあれあれ？
「僕も一度、似非だけど神になったことがある。あの時は色んな感情が一緒くたになって意味が分からなかった」
急な過去の神化宣言に驚いたが、続けて言葉を発した。
「あんな得体も知らぬ存在に好かれるなんて、相当なことをしたんだろう。話を聞いた限りだと、ただ一緒にいただけみたいだけど」
青い目線が少しずれた。そして、頭の笠のつばを片手だけで掴んで深く被り直した。
「……僕も似たものだから、他人のことは言えないか」
急に小声になって、何だと聞いてもつんけんな態度で突き放される。すごく鋭くて驚く。
「どうしても聞きたいなら、それなりの覚悟を持ってくれないといけないに決まってるだろう」
ツーンとした態度に変わり、さっきのシリアスな雰囲気が消え失せた。やっぱり彼はそっちの方が似合っている、何か嫌なことを思い出しての渋い顔よりわたしをバカにしたりツンケンな態度の方が彼らしい。それを伝えると、呆れた表情になった。
「やっぱり、君は馬鹿じゃないか」
その割には、若干声が弾んでいた。
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