白南風と見る涙のような雨上がり ページ25
目を開けると、知らない天井と緑色の帽子を被った少年が見えた。目が合って、すごく心配そうな顔で、目を潤ませた。
「良かった、良かった……やっと起きた!」
寝たままのわたしに飛び付いて、ぎゅうっと肩を抱いていた。何も分からずに目をぱちぱちさせていると、急に大きな音と共にすごい勢いでセノが視界の中に入り込んで来た。
「起きたのか!?ああ……回復したのだな」
すごい心配そうな眼差しと共に、セノが空いているわたしの手を握った。ちょっと硬いけど、温かくて少し大きくて安心する手だ。
「気持ちは分かるけど、病み上がりの患者に纏わりつくなんて何を考えているんだい」
「そうだぞ、回復する為に丸一日寝込んでいた相手だから。ムリをさせないで欲しいぞ……」
ティナリとコレイによって、わたしにくっ付いていた2人は引き離された。ぎゅうぎゅうでキツかったので助かった。目が回りかけたし。
「だって、戦い慣れていなかったのに……それに多勢に無勢だったし……」
「俺の不手際だ、すまなかった」
ウェンティが少し怪訝そうな目でセノを見た。事の発端は彼のカードケースだが、誰にでもそういうことはあると思うから気にしてはいない。実際にセノにそう伝えると、未だに申し訳なさそうに眉尻を下げていた。
「セノが忘れ物かい?しかもカードケース?本当に珍しい……」
ティナリが少し目を見開いて、自身の友人を眺めていた。セノは小さく頷き、やや照れ臭そうにした。
「A、この責任は出来得る限りは取る。無遠慮でも良い、何でも言ってくれ」
「……その割には目がきらきらしてないかい?そわそわもしてるし」
「なるほど。Aといると気が緩むんだな、分かる気がするぞ。アンバーとは違った感じの華やかさがあるし、穏やかさがあるんだ」
コレイが頷いていると、ウェンティがそっと近寄ってわたしの頭を撫でながら言った。
「ボクに色んな初めてを長い年月をかけてたくさんくれた人だよ、そんな言葉じゃ足りないくらいに素敵な存在なんだ」
こちらしか見えない、旧友の穏やかな優しく慈愛に満ちた微笑み。久し振りのせいか、胸が大きく跳ねて体中に血が素早く駆け巡って熱くなる。言葉も相まって、落ち着かない。どうすれば良いのか分からなくて、咄嗟に布団を頭から被ってベッドに潜り直した。
「ここは夫婦漫才をして良い場所じゃないんだよ」
「伴侶同士に見えた?わあ、嬉しいな」
「師匠、この人に何を言っても無意味なんじゃ……」
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