きっと至軽風の方が慣れているから ページ21
あの後、雷神様こと影とお話を軽くしてから別れた。
昔、感じたあの暗く閉塞的な稲妻を統治していた神様とは思えないくらいに穏やかな神様だ。つい最近に会った草神様と同じ女神だけど、2人して大人の穏やかさがある。わたしには持てなさそうなものだ。
「船旅かあ、こういうのも良いよね」
稲妻に来たのは、この神様の作ったろくでなしイカダのせい。そう思いながら、他の乗客たちに目立たない場所で2人だけで色々話し合った。こっちはウェンティと合流する前のことで、むこうもそんな感じのことを話していた。彼は真っ先にあの神社に訪れ、わたしが来るのをずっと待っていたとか。嬉しいやら恥ずかしいやら、さすがテイワットを旅し回っただけはある地理感だ。
「でも、やっぱり嫉妬しちゃった。知らない男たちに囲まれてやって来た君を見た瞬間、心臓がきゅっと締め付けられて痛かった……案外嫉妬深いのかも」
「あ、前にも同じこと言った!覚えてる?」と少しふくれっ面になった。そう言われても、ここに来た元凶にそう言われても無意味だと思っている。それを伝えつつ、彼があのスタイルが良い人外女性たちに囲まれている光景を思い出す。
―――ずきん。
急に嫌な感情になった。あれ、どうして、今までこういうことなかったのに。おかしいな、変になった。
「そうだ、あの時はサムライと自称名探偵がいたからAに触れなかったんだ。はい、ぎゅう」
急に手を伸ばしてきて、わたしの両手を彼の華奢な見た目の2つの手に包まれる。ふわふわに包まれ、温かいのか冷たいのか分からない手。だけど、とても落ち着く。あまり知らない土地で、緊張していたせいかもだけどすごく頼もしく感じた。
「一日一回は最低でも、逢ったり触ったりしたいな。ボクは君と2人きりであれこれするのが好きなんだから」
今は、乗員も少しの大きくも無く小さくも無い客船に乗っている。その中で、2人だけひっそりした場所にいる。
「このまま君を奪ったら、ボクのものになってくれる?」
顔を近付けられ、囁くような優しくも妖しい声色で詰め寄って来る。一瞬意味が分からなかったけど、一瞬だけ唇に何か柔らかいものが当たった。
「……っふふ、なあんて。ここは人目がありすぎるからダメだね、あの山に戻ったら2人だけで過ごさせて?」
自分がキスされていたと気付いたのは、彼が口を離して数分後。赤い顔を押さえつつ、ウェンティが真横にぴったりくっ付いて長く感じる船旅をしていた。
23人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ