破天荒な青嵐と共に走る ページ3
モンド唯一の雪の降る場所のドラゴンスパインでは、食料調達は死活問題だ。手に入れられるのはすごく僅かな種類で、飽きが定期的に訪れる。一応料理は出来るが、レパートリーの偏りが非常に激しい。人間的な贅沢を孕んでいるので、非常に面倒だと思いながら時々モンド以外の土地に足を運ぶことがある。
「何故驚く」
モンドと璃月の堺付近にある、望舒旅館でこっそりとした場所で杏仁豆腐を食べていると突然少し離れた場所に魈という旧友がいた。突然もあって、しどろもどろになりつつ話をどうふろうかと悩んでいた。
「常に串焼きを食すと思ったが、杏仁豆腐を頼む時もあるのだな」
確かにいつも頼んでいるのはそれだが、たまには別の物を食べたいという人間心が生まれる。それを伝えると、彼は端正な顔立ちを少し傾けた。無表情なので、どういう感情なのかが読み取れない。昔からだけど。
「雪山に閉じ籠ったままなのか」
頷きながら、スプーンで掬った杏仁豆腐を頬張る。ぷるぷるの甘い豆腐と感触に心奪われる。魈の好物はセンスがあるが、彼曰く夢という美味しい食べ物の味らしい。よく分からない世界だが、わたしも似たようなものかとスルーした。
その質疑応答の後、静かな時間が流れる。高所のせいで強めにびゅうと吹く風が、わたしたちの間を通り抜ける。同じく風元素の神の目を持つ者同士で、どこか心が許せているのだろう。同じ場所に居続けるということをお互いにしているので、かなり似ているのかもしれない。
「恐らくだが、あの神が近くに現れるのだろう。逆に騒がしそうだ」
本当にあの神様の言動が筒抜けはどういうことか。神様だからただの呑兵衛じゃなくて、璃月の神様みたく慎ましく穏やかに生活すれば良いのに。
目の前に移動した仙人は、金色の眼差しで見詰める。
「詩を読む時の彼はまだ良いが、飲んで彷徨う姿は好ましく思えない……しかし、Aは彼と共に過ごすのは苦痛ではないのか」
苦痛に感じる時はあるが、慣れてしまった。それに、急すぎない言動であれば許容範囲だ。
いようがいまいがどうでも良い。風のように突然現れ、風のようにひゅうっと去って行く。そんな掴み所の無い存在だ。
「そうか……我もAにそう思われたいものだな……」
なにを言ったのかあんまり聞こえなくて、もう一度聞き返そうとしたが彼は旅館の高所からの景色を腕を組みながら見詰めた。
「ああ、見慣れた景色だがいつもより綺麗に見える」
それしか返してくれなかった。
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