どこらかしらからも吹く松風 ページ18
肌がびりびりしない稲妻に、平蔵にどこに連れて行かれる。知らない場所で、薄い桃色の花に目を奪われる。柔らかな雰囲気で、集まっている花束が遠くから見たら薄桃色の葉っぱの木に見える。甘い香りに心までも奪われそうになる。
「うん?モンドにはこの木は無いのだね、花が綺麗な木でね櫻って言うんだ。材木は夢見材になるんだ」
すごく綺麗で、顔を見上げて視界に収める。いつもは地べたに生えているスイートフラワーとか、ウェンティが持って来たセシリアとか、顔を下げるだけで見える花しか見たことがなかった。過去に1回だけここに上陸してきたことがあったが、その時は荒廃していた土地でびりびりしてあまり良い雰囲気はしなかったので早く帰ってしまった。それなのに、ここには素敵な花があっただなんて。自分の視野の狭さと愚かさに心がぎゅうっと締め付けられる。
「そうだ、ちょっと待ってて」
隣にいた彼は、ひょいっと櫻の木を上っていく。そして、一本の細い枝を優しく折って持って来た。
「あの木に悪いことしたけど、観光に来たお客さんを無下にできないしね。どうぞ」
そっと櫻の枝を渡してきて、お礼を言いながら受け取る。受け取らないと、あの木にも平蔵にも悪いし。それに、優しい色の小さな花がたくさん連なっている櫻に興味もあったし。じいっと食い入るように見ていると、隣から声をかけられる。
「気に入ってくれたかい?それなら嬉しいよ」
ふわりと笑う少年に対して、またお礼を言う。すると、彼は一瞬だけ笑顔を崩してわたしを食い入るように見ていた。驚いて、彼に訪ね直そうとする前に元の掴み所の無い笑顔を作った。
「ねえ、稲妻に住まないかい?毎日この綺麗な花が見れるし、君で良ければ毎日僕が逢いに行くよ。後は、君はすばしっこそうで力仕事が得意そうだから、助手になってくれると嬉しいかな」
話が見えない、何を言っているのか分からない。目が見開いたままで、彼をじいっと見てしまう。
「君って、ドラゴンスパインの噂のお姫様でしょ?殺人事件より有名だよ、登山に遭難した際に現れる少女だって。大男でも簡単に持ち上げたとか、それに難破しても無傷だし体が丈夫だって分かるよ」
どうしよう、全部当てはまっている。病気やケガをしない体質だから、海に呑まれても無傷でいられた。両親の血液のおかげだろう。でも、モンドに帰りたいので平蔵の提案を断った。
「ああ、そっか。君はあの土地を愛しているんだね」
あれ、そうなのかな。
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