融ける弾丸【文豪ストレイドッグス】

飴玉が2つ ページ4

がりごりと噛み砕いた苦い飴をごくりと嚥下し、スナイパーライフルを鞄に仕まい込んだ。

今後銃として使えるのか心配になる程の扱いではあるけれど、まあ気にする事はない。驚くことなかれ、なんとこれ、伸縮自在なのである。組織への従属の証として貰い受けた逸品だ。

さる爆弾狂のマッドサイエンティストが(暇つぶしに)作り出したとされ、その銃身の目立たない部分に檸檬の印が付いている。本当に気にならない程だし、何より何だかお洒落でさして気にならない。

大層値が張るらしいがタダ同然で貰ったのでその凄さがいまいちわからない。いや、タダ同然というか己の忠誠と引き換えなのでさして嬉しくもない。本音を言うなら別にこの相棒は要らなかった。

ただ性能はピカイチなのでこの相棒の事は全面的に信頼している。だからか、作った人物を1回くらいは拝んでみたいものだと思っている。
まあ拝んだとて何か思うところもない訳だが。

「…」

ああ、また考え事をしている間に報告も何も済ませてしまったようだ。最近こういう事が多い。歳だろうか。

「……迎え、行かなきゃ」

勝手に口から紡がれる言葉と共にまたもや勝手に動く体。別に異能力にかかってる訳でもなんでもない。…ただ、俺の中で自分自身を切り離してしまった結果である。

誰しも辛いことは直視したくない。
そうだろう？

だから、たとえ中途半端に人格が分離していたとて許して欲しいものだ。

愛しい弟が腕の中に飛び込んできた今だけは、己の体を己で動かしていると実感することができる。
歳の割に肉付きが薄く少年の様な体をもつ弟は、これまた可愛らしい顔をしており、それがまた堪らないそうだ。
虫唾が走る。弟をそんな対象でみる輩は全て死ねばいいのに。

この子はそいつらの欲を果たすためだけに生きている訳では無いのに。

…また頑張らなくては。一刻も早く弟をそんな環境から救い出さなければ。
それから、ちゃんと、お兄ちゃんをしなくては。

お兄ちゃんである事は苦痛ではない。寧ろ嬉しい事である。「兄」であるその時間だけは己が生きていても良いのだと、そうまだ思えるから。
でも、それでも息をするのも辛い時がある。肺が灼けるような痛みにのたうち回る時がある。

痛いのは嫌いだ。
其れはどうしようもなく辛いことだから。

やり直しが効かない世の中でやりたいことは何一つ得られない。

それが人生なのかもしれない。

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