38、…ああ、どういたしまして ページ12
どこへ行くと長谷部が声を掛ければ、
「ちょっくらAを寝かせに行ってくる。…前、三日月の旦那が勝手に部屋に連れ帰ったりしたからな」
と、苦笑しながらAを抱きかかえる。
「…や、げん…」
「どうした?」
夢現の中で、呟かれた己の名に、おそらくわかっていないであろうことは承知しつつも、返事をしてやれば、仄かな笑みを浮かべて、頬を摺り寄せてくる。
「…あり、がと」
「…ああ、どういたしまして」
そのまま、すやすやと本格的に寝入ってしまった少女の寝顔を見つめ、まだまだ軽いが、ここに来た当時よりも確実に重さを増した体を感じ、あとどれだけ抱き上げてやることができるだろうかと考える。
姿が変わらない自分たちを置いて、成長し、年を取っていくのだろう。
自分が抱え上げることができなくなっても、まだまだこの少女の命は続く。
だが、その分だけ、人の命のもろさに触れることになるのかもしれない。
人の身の体を取った己が、どれだけ生きるのかはわからない。しかし、この少女がこの世から消えるよりも早くということはないだろう。
それでも、自分を含めた、この本丸の全ての刀剣達は、この儚い少女を最期まで慈しみ、愛おしむのだろう。
ちょっとした感傷に浸りながら、いつもAが寝ている粟田口の短刀たちの部屋に着けば、すでに弟たちが数振り、健やかに寝ていた。ただ、疲れていたのか、布団すら敷いていない。
「まったく…」
苦笑いを浮かべると、そっとAを下ろし、エアコンのスイッチをオンにし(前審神者がすべての部屋にエアコンをつけていた)、皆の分の布団を敷いてやる。
「…………」
Aを布団に寝かせた後、弟たちをどうするか考え込み、最終的に全員を布団に運んでやった。
「じゃあ、もちっと飲むかな」
一仕事終えた薬研は、そのまま縁側に戻り、長谷部と1杯酌み交わした。
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