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「あの時...ペンくれた時、異動するって言ってたじゃないですか」
「うん、異動したよ。でもそこで1年勤めて辞めた。」
...そんなすぐに辞めてたんだ。
「ねぇ...先生」
「ん？」
「まだその子のこと、...好き？」
だから辞めたんですか？
視線が絡み合って、解けない。
その先生の瞳が、少し揺れた。
「フフッ、どうかな。」
「先生、ズルいよ」
「...そっちこそ、そんな質問ズルくない？」
「...」
挑発的で、切なげな目をしてる。
「...Aさんは、大学生活どう？」
話はいきなり変わった。
「楽しいですよ、忙しいけど」
「忙しいのに、俺とここで喋ってていいの？」
「そこまで忙しくないです」
閉じてた扉を、開いちゃいけない。そんな顔が目の前にある。
だから先生は、話題を変えたんだ。
なら、私がその扉を開けなきゃ…。
「先生が、ペンをくれたあの日。私はひとつの恋を諦めました。」
「…」
「その理由は、私がまだ子供だったから。先生が、大人だったから。」
先生の視線は、私のコーヒーに向いてる。
私は今、またズルい質問をしようとしてる。
「ねぇ、先生」
「…」
「まだその子のこと、…好き？」
目が合った。真っ黒な先生の瞳。それが、揺れた。
そして、俯いて片頬をあげて笑った。
「覚えてる？いつも飲んでたコーヒー牛乳」
「…」
「コーヒー牛乳が、コーヒーになったんだもんね。苦いから嫌って言ってたのに」
放課後、教室で化学の話をしてた時も、この距離だったね。と今のカフェの席で微笑む先生。
「忘れてないよ」
「…」
「全部。忘れられなかった」
だから先生を辞めた。それでも忘れられなかった。
おかしいんじゃないかって自分を責めた。あんなに頭から離れないのに、気軽に連絡取れる相手じゃないの。
「拷問だよね」
切なげに笑った先生は、笑顔を見せる前のあの時の表情と似ていた。
もう大人だから。フラれても、言っていい言葉だと思った。
「先生」
「…」
「私、先生のこと…今でも好き」
先生の瞳がまた揺れて、静かに。そっと、笑って。罪な女、と呟いた。
瞬きの一瞬で、先生の表情は変わった。
色気を帯びた、挑発的な顔をしていた。
そして彼は、私の手を取って、走り出した。
その掌は、扉が開かれているように感じた、暖かいものだった。
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さんご(プロフ) - しおりさん» はじめまして、しおりさん。コメントありがとうございます。そんなこと言って頂けるなんて、もう嬉しい限りです(笑)こちらこそありがとうございます(´ω｀) (2019年9月21日 12時) (
レス) id: e1b1cf4c3f (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - はじめまして。どのお話も優しくて、心が温かくなりました。さんごさんの丁寧な言葉の紡ぎかた大好きです。多分何度も読みに来ちゃうやつだ(^^)ありがとうございます。 (2019年9月21日 7時) (レス) id: 072c120661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さんご | 作成日時：2019年8月15日 16時
