黒百合の勝鬨【石田三成】弐 (ページ10)

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二剣ノ迷走ページ10

「おや、思ったよりも元気そうですね」

長い髪を揺らしながら男はAを見て微笑む。マスクを着用しているため声は少しこもっていた。

「い、家康は……」

「戸田様と言い争っていましたので、私は邪魔にならぬよう抜け出してきたのです」

左近は男を部屋へ立ち入らせないよう立ちはだかった。
三成もAを庇うようにして刀を構える。

「申し遅れました。私は天海。ただの僧侶です。今は戸田様の相談役」

「相談役？」

「ええ、今回戸田様は貴方のお見舞いとお伝えしたいことがあってこちらへ出向いたのですが、どうも言いがかりをつけられて面会もままならなかったとか。徳川家康は余程貴方と戸田様を会わせたくないようですね」

天海はやれやれと呆れたように額に手を当てる。

「真喜姫様が危篤状態だというのに」

天海の放った一言が、それまで冷静だったAを激しく動揺させる。

「今……なんと？」

「真喜姫様は今危篤状態でしてね。娘の姿を一目見たいと魘されているのです。しかし徳川家康はそんな母心を無下にして貴方を閉じ込めようとしている」

「惑わされるなA！全てこの男の妄言だ！」

「妄言？私は真実を言っているまでです。真喜姫様はいつも悲しんでおられましたよ。夫を亡くされ、娘は自分の元を離れてしまった。寂しさから心を病まれ、そして今はもう……」

天海の声がAの良心を蝕んでいく。

父のことを一心に想い、父が別の女性と結婚しても強かでいた母。
それでも男子を産めなかったこと後悔し、いつ用無しと言われ実家へ戻されるか分からない不安に怯えていた。

＿＿……そうだ。私が強くなればいいんだ。＿＿

手柄を立てるために刃を手にした。
父に認めてもらえれば、きっと父も母を見てくれる。

そう信じて。

＿＿私が、誰よりも強くなれば……＿＿

……あれ？

私は元々誰のために戦っていたんだっけ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)？

「左近！その男を追い出せ！」

三成の声で我に返る。
目が血走り、三成が強く抱きしめてくれなければ今にも天海の元へ駆けていきそうだった。

「やれやれ、薄情な人ばかりですね。今日の日没まで待ちます。それまでじっくりお考え下さい」