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折り鶴 ページ9

翌日、快晴が続いていた空は一変して曇天だった。
今日まで女中の仕事を休むことにしたAの鼻を墨の香りが撫でる。
療養している部屋の隅で物言いたげな視線を飛ばす先には今日分の政務をこなす三成の姿。


「あの……何もここで仕事しなくても」

「なんだ。嫌なのか」

「いや別に嫌ってわけじゃないですけどぉ……」

「私とて趣向を変えたいときもある。それに家康が常に傍にいればまた怪しまれるだろう。ならば私が貴様の傍にいることで互いの利益は一致する」


もっともらしい理由付けをされ、Aはぐうの音も出なかった。

しかし内心ではほっとしている。
これ以上家康に迷惑をかけたくないし、何よりたまに様子を見に来る彼に叔父のことを尋ねても笑顔で誤魔化すばかりで全く話す素振りを見せない。

今まで頼られていたと思っていたのに、急に外野として認識されたようでいい気はしなかった。


「なんで相談してくれなかったんだろ……」


部屋の壁に寄りかかって、立てた両膝に頭を付ける。
落ち込むAを見ていられなかったのか、三成は余った紙で何かを作り始めた。
完成した折り鶴をAの頭に乗せる。


「ちょ、人が落ち込んでる時に何して……わぁっ、鶴だ」


Aの掌に乗るくらいの鶴。
丁寧に折られたそれは作った人間の性格がよく表れていた。


「確かこういうのを“折り紙”って言うんですよね。町の子が作っているのをよく見かけます」

「丁度紙が余っている。好きに使え」

「えっ……いや、私折り紙なんてやったことないですし」

「鶴くらいなら教えてやる」

「本当ですか!あっ、でも仕事はいいんですか?」

「貴様に心配されるほど無計画ではない。そうだな、これは休憩だ」


そう言って三成は微かに微笑んだ。
彼の優しさに触れ、Aも思わず笑顔がほころぶ。
あーでもない、こーでもないと意見を交わしながら折り鶴が完成した。


「初めてにしてはよく出来ている」

「教え方が上手かったからですよ。やっぱり凄いなぁ、あの紙一枚で鶴が出来るなんて」


折り鶴で喜ぶAは本当に子どものようだった。
それを見ていると教えた側としては喜ばしいし、何より無邪気な彼女が愛らしく思えてくる。

しかしほのぼのとした空間は、部屋に駆け込んできた左近の一声でかき消された。


「Aさん!早くどっかに隠れ……」


慌てた左近の表情が一瞬にして強張る。
彼の背後には目を細めた長髪の男が立っていた。

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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時

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