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鳴かぬなら ページ6

後日、痺れを訴えたのがAだけだったことが判明し、Aが運悪く毒物に当たったという結論に至った。
しかし一歩間違えれば秀吉が食していたかもしれない。それに関しては不幸中の幸いだったと誰もが思った。

そして同時に“Aの気を引くために毒を盛った”だけではなく“秀吉を暗殺しようとした”という噂が屋敷内に広まった。

家康は彼らに責め立てられても一切無言を貫いた。
その行動が余計に信憑性を増しているとも知らずに。


「何故言い返さない」


ある日、療養中のAの元へ向かおうとした家康を三成が呼び止める。


「……わしが持参した菓子で姉上が倒れたのは事実だ」

「それが事実だとしても、貴様は秀吉様暗殺の疑いもかけられているんだぞ!」


家康は下唇を噛んで耐えていた。
強く噛みすぎたせいで唇が傷つき、口の中に血の味が広がる。


「違うんだ」

「違うならそうだと皆の前でも主張しろ」

「違う。姉上だから狙われたんだ」


家康の言葉に三成の表情が曇る。


「どういうことだ?」


尋ねてみても、家康は何も答えなかった。
話すことを渋っているようにも見える。


「おい」

「これはこれは、竹千代ではないか」


三成の後ろから見知らぬ中年の男が現れる。
家康の知り合いのようだが、話しかけられた家康は男を見て青筋を立てた。


「叔父上……何故ここに」

「何故?Aが倒れたと聞いて見舞いに来ただけだが、何か問題でもあるか?」


高圧的な物言いの男は、次にAの居場所を尋ねてきた。


「申し訳ないが姉上と会うことは出来ない。今日のところはお引き取り願えないだろうか」

「ふむ。会えば何か不都合なことでも?」


口元に皺を作り、わざと周囲に聞こえるくらいの声で話す。
そんな男に負けじと家康はお得意の笑みを浮かべて「姉上も叔父上に弱った姿は見せたくないはずだ」と言い返した。


「Aも頑固な女よの。一体誰に似たのだか……あぁ、忌々しい」


独り言をぶつぶつと呟いて去っていく男の背を横にいた三成が見送る。


「今の男は?」

「……わしと姉上の叔父だ。できれば関わりたくない」

「Aが狙われていることと関係しているからか?」

「……そんなところだ」


肝心なことは言わない家康にもどかしさを覚える。
何かを一人で背負い込もうとする家康に苛立ちを覚える。


「何故話さない」

「これはわしの問題だ。豊臣(お前たち)には関係ない」

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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時

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