同床異夢 ページ48
三成が目を覚ますとそこは見知らぬ家の中だった。
囲炉裏の中では僅かに赤くなった炭がパチッと音を鳴らしている。
「ここは……」
周辺を見渡していると、少し離れた場所で左近が横になっていた。
彼はすぅすぅと寝息を立てて眠っている。
何を呑気に寝ているんだと叩き起こそうとした時、戸が開いた。
「早いお目覚めで」
外の冷気と共に現れたのはAと見知らぬ覆面姿の人物。
Aは慣れた手つきで囲炉裏に火をつけ、再び部屋を暖めた。
「……貴様がいるということは、ここは徳川領で間違いないのか?」
「そうですね。貴方々は迷い子ですか?それとも徳川領と知って足を踏み入れたんですか?」
「貴様に用があって来た。徳川が豊臣に離反したというのは誠か」
「本当ですよ」
やけにあっさりとAは答えた。
「秀吉様と半兵衛様は……」
「豊臣秀吉は討死。竹中半兵衛は行方不明。現在別の隊が捜索中です」
「ふざけるなッ!」
怒号が飛び、淡々と話していたAの前に剥き出しの刃が向けられる。
「貴様はッ……全て知った上で家康に従ったのか!長曾我部とまで結託して私を足止めし、秀吉様の元へ向かわせないようにッ……」
声帯が震える。喉に圧迫感がある。
家康に裏切られた。
Aに裏切られた。
その事実から目を背けたい。悪い夢であれと今もどこかで願っている。
刃先を向けられたままのAは着物の裾を握りしめて、憎悪一色に染まりつつある三成を見上げた。
「……どっちにしろここに長くはいられないでしょう。左近君が目覚め次第、裏口から逃げてください。彼、相当疲れていたみたいですから」
未だ目覚めない左近を横目に見る。
話をはぐらかしたAに激昂して、三成は無機質な冷たさを持つ刀の腹を彼女の頬に当てた。
「答えろA……何故家康はこの世から秀吉様を奪った?貴様らは豊臣の一員だったはずだ。秀吉様の天下を望んでいたはずだ。……なのに、この期に及んで貴様の弟は天下に目が眩んだかッ!泰平の世を望んでおきながら再び世を乱したのは紛れもなく家康だろうッ!」
言葉の槍がAの心を何度も貫く。
責任を感じて思わず謝罪の言葉が出そうになった。
でもきっと、彼は謝罪を求めているわけじゃない。
悲しいんだ。苦しいんだ。
私と同じで、どうしたらいいか分からないんだ。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時