黒百合の勝鬨【石田三成】弐 (ページ47)

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春霖ページ47

柴田勝家率いる部隊と交戦していた三成は遂に膝を付いた。

「……何故だ、何故貴様がっ……！」

「……徳川は織田と手を組んだ。そして一部従わなかった織田の兵と豊臣はそれに敗れた。……私の言いたいことは分かるか？豊臣はもう終わったのだ」

「黙れッ！黙れ黙れッ！」

ほとんど力任せに三成は刃を奮う。
しかしその刃は勝家には届かない。
複数の織田の兵士が行く手を阻む。
万全の状態ならなんてことなかった。ただ冷徹に、いつも通り兵をなぎ倒すだけでよかった。
しかし休まず走って来た分の体力の消耗が激しく、身体が言うことを聞かない。
酷使していた足も震えて、無理に立ち上がろうとするとすぐによろけて倒れてしまう。

湿った地面の匂い。止まない雨の音。
入れ替えの激しい呼吸を繰り返したせいで肺が凍るようだった。
段々息をするのも苦しくなってくる。

「お、のれっ……！」

囲まれる。
もう戦える力はほとんど残っていない。

……私は、こんなところで死ぬのか？
秀吉様と半兵衛様の安否も確認出来ずに。
左腕としての役目も果たせずに。

「家康……私たちは友ではなかったのか？A……何故貴様まで私を……」

雨の中、勝家は豊臣の最期を見届けようと思った。
これから先のことを考えると三成は“脅威”でしかない。

「これも運命(さだめ)だろう。火種は早めに摘めと命じられている故に……」

「待て、その人を殺すな。その人は私が預かる」

いつの間にか勝家の隣には和傘を持った人物が立っていた。
勝家が率いていた兵に退くよう命じ、雨に打たれる三成に傘を傾ける。
人の気配を感じた三成は虚ろな眼だけを動かして傘を傾けた人物を見た。

「……ぁ……A、っ？」

名を紡がれたAは少しだけ悲しそうに眉を顰める。

「春霖(しゅんりん)、彼を運ぶのを手伝ってくれ」

“春霖(しゅんりん)”と呼ばれた頭巾姿の側近はAの言葉に無言で頷いて三成に肩を貸す。

「……お前はその男も匿うつもりか？」

すれ違いざまに小声で勝家に問われる。

「この有様では凶王三成と言えどしばらく動けないだろう。もし家康らに勘づかれたら適当に誤魔化しておいてくれ」