足踏み ページ46
少し前。
勝家と別れたAは屋敷の奥へと足を進めていた。
一度外へ出て裏口を行くと、そこには彼女が隠れ家としている小さな家がある。
一人になりたい時、彼女は必ずここへ来る。
そしてここでひっそりと半兵衛を匿っていた。
「……何故僕を殺さない」
手当てを受けてようやく目を覚ました半兵衛はAが戻って来るなり尋ねた。
「貴方なら何か知っていると思った。一体家康に何を吹き込んだ?」
「それはこっちの台詞だよ。何故家康君は豊臣に離反した?」
「家康は“豊臣が治めた先に待つのは新たな戦場だ”と言っていた。私はその意味を知りたい」
「君には関係ないことさ」
「じゃあ、質問を変えよう。私たちの母を……真喜姫を殺したのは豊臣の策略か?」
尋ねることさえも苦しかった。
僅かな動揺も見逃さないように、Aは一切瞬きせずに半兵衛を見つめた。
「……誰からそんな情報を聞かされたのか知らないが、そう疑う根拠を教えてもらおうか」
「叔父上の背後には織田がいた。もし私がそちら側についてしまえば、徳川との関係が崩れかねない。だから私と戸田家との関係を絶つために母上を殺した。家康はそれを知ってしまったから豊臣に離反した……」
「そうなると先程の家康君の発言は些か不自然だろう。わざわざ嘘を吐く理由なんてない。寧ろ事実を伝えた方が君は迷わず家康君に加担するはずだ」
「……私には何が本当で嘘なのか分からない。だから指示を出されても素直に動けない。もし家康が誰かにそそのかされて動いているのだとしたら、私だけじゃ動ける範囲が限られている。今だって、貴方を庇っていることが公になれば追放されてもおかしくない」
天海の声がまだ耳に残っている。
その声が煩わしく、自然と手に力がこもった。
Aの話を聞いていた半兵衛はゆっくりと体を起こす。薬のお陰か呼吸は随分楽になっていた。
「……それで?僕にどうしろと」
「私に協力してください。特に天海という男の素性を探って欲しいんです」
「馬鹿馬鹿しい。家康君は秀吉を殺しているんだ。その姉である君に協力するはずないだろう」
「承知の上です。しかしこうしている間にも家康は勢力を拡大しようとしている。その状況を三成さんが黙って見ているとは思えない」
「……そういえばさっき、物音が聞こえた。確か豊臣の残党がどうとかって」
「ええ、恐らく三成さんたちでしょうね」
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時