左腕迷走 ページ45
どれだけ走っただろうか。
喉の奥から血の味がする。
鼓膜に直接どくん、どくんと鼓動が響く。
視界はぼやけてきて、足はもう動かない。
三成を追いかけていた左近は激しく呼吸をしながら誰もいなくなった前を呆然と見つめた。
「三成様……速過ぎ、っしょ……」
降りかかる雨が冷たい。
全身に力が入らない。
……弱音を吐くな。足を動かせ、俺。
秀吉様と半兵衛様がいなくなって三成様は戸惑ってるんだ。
「早く、早く追い掛けないと……!」
しかし限界に近い彼の身体は悲鳴を上げていた。気持ちばかりが虚しく先走る。
一歩足を動かした瞬間、左近の身体は吸い込まれるように地面へ落ちた。
水を含んだ地面も酷く冷たい。
動かなくなった彼の身体に雨雫が容赦なく体温を奪っていく。
「ああ、くそっ……は、やく……三成様、追いかけなきゃいけないのにッ……!」
雨音さえかき消すような耳鳴り。
意識が完全に途絶える前、誰かが自分の目の前に立っているような気がした。
「……だ…………か……?……い…………」
誰だろう。なんて言ったんだろう。
微かに動く指先に出来る限りの力を込めて、顔を上げる。
ああ、ダメだ。雨のせいで視界が悪い。
どこか懐かしさを孕んだ雨の匂いを最後に、左近は意識を失った。
*******
左近がいなくなったことなど、三成が確認する余裕はなかった。
佐和山城を出たあとからずっと、形のない何かが心臓を逆撫でている。
その気持ち悪さを紛らわすためにひたすら身体を酷使した。
この足を一度でも止めてしまえばまた謎の気持ち悪さに弄ばれてしまう。
だから、後ろを振り向く暇なんてない。
ただ一人残った三成は徳川の屋敷を目指した。
屋敷に近づく度、まだ片付けが行き届いていない御旗や死体がある。
走りながらではあったが、ボロボロになった御旗の中には豊臣の紋も見られた。
視界に入る度、段々顔が蒼白していくのが分かる。
呼吸が乱れる。
だが本能的に危機を察して、咄嗟に刀を抜いた。
甲高い金属音と共に刀を持っていた手が衝撃で痺れる。
「……仇討ち、というわけではなさそうだな。貴方の瞳には微かに希望が宿っている」
兜の下から覗く虚ろな瞳。
両先端に刃がついた薙刀。
私はこの男が嫌いだ。
この男を見ていると、意味もなく焦り覚えてしまう。
Aが家康の次に特別視している男……。
ああ、また心がざわつく。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時