黒百合の勝鬨【石田三成】弐 (ページ39)

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盛者必衰ノ理ページ39

同時刻、佐和山城に不吉な報せが入る。
天守閣の最上階で三成は眉をひそめていた。
報告する兵士の声は砲撃でほとんど聞こえない。
こうしている間にも、鬼の彫刻を施した水陸両用の船がこちらに近づいて来る。

「あれが四国の蝙蝠か」

見据える船の舳先に立つ男。
彼は不敵な笑みを浮かべたまま佐和山城に兵を挙げた。

*******

三河で徳川の軍勢と合流する予定だった半兵衛は戦況に違和感を覚えていた。
この三河の地を踏んでから、織田の旗のみならず豊臣の旗の数も不自然に減っている。

「どういうことか説明してもらおうか」

徳川の兵を連れていたAに問う。

「……そんなの私が知りたいよ」

誰にも聞こえない声でAは唇を噛み締めて短刀の柄に手をかける。
鈍色に輝くその短刀を高く掲げ、半兵衛たちに向けた。

「聞け三河の勇士よ！我が名は二剣、東照の刃である！これより東照の命に従い豊臣に離反する！」

その号令と共に「応ッ！」と答えた徳川の軍勢は豊臣に攻撃を開始した。
豊臣の兵士は状況を読み込めていない者も多く、一方的な戦いが始まる。

「……成程。織田だけではなく、織田との戦いで疲弊している僕らも一網打尽にするつもりか。全くもって笑えない冗談だ」

静かに怒る半兵衛は、関節剣を鞭のように操る。
Aは伸びてきたそれを片方の短刀に絡ませ、半兵衛の動きを止めた。

「何故邪魔をする！豊臣を敵に回したところで徳川が生きる術は限られているだろう！」

「家康が決めたことです」

「君は豊臣にいながら見ていた！弟の過ちを正すことが姉としての役目じゃないのか！」

「そんなの、分かってるッ……！」

「だったら今すぐ兵を引け。家康君を説得するんだ！」

強い力で引っ張られ、Aの身体が引きずられる。

家康が何を考えているか分からない。
だから迷いがある。
しかし家康は言っていた。
『豊臣が治めた先に待つのは新たな戦場だ』と。
家康は衝動で動くようなタイプじゃない。
きっと何か理由がある。

今はそう信じるしか……

そう思い込むしか無かった。