号令 ページ38
懐かしい屋敷の香りを味わう間もなく、既に屋敷で待機していた兵士たちの戦支度は整っていた。援軍として駆り出されていた兵士も再度戦支度を整え、迎え撃つ準備は万全。
「現在豊臣が優勢。本拠地を攻められた織田は三河へ進行しております」
斥候の言葉にAは両手を腰に当てる。
「お前の読み通りだったな」
「“読み”か」
頭巾を深々と被った家康は三河の地に迫る蹄の幻聴を聞いた。
出来ることなら、手早く済ませたい。
「皆、よろしく頼むぞ」
兵士たちを鼓舞し、その場には姉弟だけが残される。
「姉上」
「ん?」
「わしは泰平の世を築きたいと思っている。だが戦場に赴く度、思い悩むんだ。本当にこれでいいのかと」
湿った空気が地上を漂い、先程まで晴天だった空を厚い雲が覆う。
泰平の世を創るために戦をする。
民を救うために兵士を殺す。
長い間、誰もがその矛盾の中をずっと彷徨い続けてきた。
「……大丈夫。豊臣が天下を統一すればきっと泰平の世が来る」
秀吉はただ殺戮を繰り返していた信長とは違う。そう三成が教えてくれた。
だから心配ないと。今は目先のことだけに集中すればいいと助言しようとしたその時。
「来ないさ」
家康からはっきりと否認の言葉が帰って来た。
「どうしてそう思う?」
Aに尋ねられ、頭巾の下から覚悟を決めた瞳が大きく揺らぐ。
佐和山城を訪れる前、大坂城で聞いてしまった秀吉と半兵衛の会話。
この日ノ本を治めたあとに始まる新たな計画。
「豊臣が治めた先に待つのは新たな戦場だ」
刹那、猛り狂う咆哮が響き渡る。
織田と豊臣がこの地へ足を踏み入れたようだ。
「これより徳川は豊臣と袂を分かつ。姉上には合流予定の豊臣兵を相手して欲しい」
「何を言って__」
「もう決めたことだ。姉上、貴方も覚悟を決めてくれ」
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時