雨催い ページ37
翌日、援軍として寄越していた徳川の軍勢は一旦家康と共に三河へ戻ることになった。
それに伴い戦力の関係でAも三河への帰還を強いられる。
「いいかA、無理はするな」
「はい」
「なるべく前線には出るな」
「はい」
「なんなら戦場に出るな」
「は……いやいや、そうなったら私が行く意味ないですよね?」
三成にあれこれ言われているAを見て、家康は忠勝の隣で苦笑いをする。
「姉上は随分三成に気に入られてるな。これもまた新たな絆か」
人質とはいえ長く一緒にいれば仲も深まる。
織田での生活に比べれば豊臣はまだいい方なのかもしれない。
しかし素直に喜ぶことが出来ない。心のどこかに黒い靄がかかっている。
「姉上、そろそろ行こう」
家康はAに呼びかける。
「分かった。じゃあ三成さん、今度会う時は大坂で」
「ああ」
「またうどん食べに行きましょうね」
「貴様が無傷で帰って来たらな」
佐和山城で三成たちに別れを告げてAは家康と共に三河を目指す。
忠勝の背から見えていた天守閣が段々遠ざかって終いには城下町も見えなくなった。
名残惜しそうに見ていたAは後ろからやけに視線を感じて家康の方を振り向く。
「何?」
「いや?姉上も女らしくなったなと思って」
頭巾を被っていた家康は忠勝の背に立って真っ直ぐ前を向く。
一方、彼のふくらはぎ辺りにもたれかかっていたAはそのまま肘で彼の膝の裏を攻撃した。
「痛っ!?何するんだ姉上、体勢崩したら危ないだろ!」
「なぁーにが“姉上も女らしくなったな”だ!どの目線でものを言っている!」
「なんだ照れ隠しか?」
「は?もう怒った。落っことしてやる」
「やめ、ちょ、止めるんだ姉上!ほら忠勝も暴れるなって言ってる!」
忠勝の背で暴れる二人。
そんな彼らが向かう先には暗雲が立ち込めていた。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時