金色の避役 ページ36
「そういうわけだ。わしは一旦三河へ戻る。攻められた織田が三河に流れてくるかもしれないからな」
家康は膝を立てて立ち上がる。
しかし外は既に日が落ち、辺りは一面闇に包まれていた。
「家康、今日だけでも相当動き回ったんじゃないか?少し休んだ方が……」
「大丈夫。このくらいどうってことないさ」
「お前の大丈夫は信用ならない。私が休めって強く言わないと休めないのか」
三河から大坂へ向かって、更に大坂から安土城へ向かって、更に安土城から大坂へ戻って佐和山城へ。
この一日でそれだけ回って疲れていないはずがない。
「だから大丈夫だっ__」
「休むのも仕事!これは姉からの命令だ」
図々しく命令するAにどことなく安心感を覚える。
「大丈夫か」と聞かれても、結局は心配をかけたくない故に「大丈夫」と答えてしまう。否定することにどうしても後ろめたさを感じてしまう。
だからこうして誰かに強く言ってもらわないと素直に休むことが出来ない。
そう言った意味でもAの存在は大きかった。
「空いている部屋ならある。好きに使え」
「なんだか気を遣わせてしまって悪いな」
「貴様はこれからまた忙しくなるんだ。思う存分休め。なんなら寝過ごしても構わんぞ。私が代わりに秀吉様の元へ加勢に行ってやる」
「執念が凄い」とAがぼやく。
「ところでA、傷の具合はどうだ?この薬は二度塗った方がいいと刑部が言っていたが」
「あー、後で塗っておきます」
「今すぐ塗れ。放置して痕が残ったらどうする」
「分かった分かった。自分で塗りますから薬持ったまま迫らないでください」
その場に傷薬の独特な匂いが香る。
なんだかんだ言いながらも楽しそうなAを見て、家康は思わず微笑みを浮かべた。
……否、微笑んだ彼の顔はハリボテである。
誰も彼の本当の色を知らない。
誰も彼の表裏を疑わない。
今まで秘めてきたもの。
今まで閉じ込めてきたもの。
擬態していたそれらが徐々に剥がれていく。
まだだ、と彼は自分に言い聞かせた。
__あと少し。あと少し……。__
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時