黒百合の勝鬨【石田三成】弐 (ページ32)

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佐和山城防衛戦３ページ32

冷ややかな瞳を向けた後、勝家は再びAに斬りかかった。

「……っ」

眼前に迫った矛先を短刀で防ぐ。

ふと、逆刃薙の間から数人の兵士がこちらに向かって銃口を構えている姿が見えた。
旗印は織田。銃口が自分を狙っていることは想像できたが、このまま発砲してしまえば味方である勝家にも当たってしまうだろう。

しかし織田の兵士は何を思ったか引き金を引いた。勝家はそれに気がついていない。

「伏せろ勝家ッ！」

Aが叫んだ時には既に勝家は二発ほど背に銃弾を受けてしまった。
彼が崩れ落ちるのと同時に身体が自然と前に出て、迫り来る銃弾の盾となる。

＿＿ああ、こんなことするからお人好しだなんて馬鹿にされるんだ。＿＿

短刀で銃弾を跳ね返そうとするが、斬った銃弾の破片が頬や肩を掠め、裂けた皮膚から鮮血が流れる。

何が起きているのか把握出来ない。
勝家はただ自分を庇うAの方を振り向く。
銃弾を受けた背中が痛みと熱さを繰り返した。

「……止めろ」

声が震える。
唇を噛み締め、Aに手を伸ばした。

「何をしているA、早く、逃げろ。私なんか、庇うな」

Aは何も答えなかった。

なんで。お前は……いつもそうだ。
お市様は呼んでも振り向いてくれなかったのに、お前は呼べばすぐに返事を返した。
いつも「なんでお前がお市様じゃないんだ」と妬んでいた。
なのに、こんな時ばかり呼んでも返事をしない。振り向いてくれない。

そして、次の銃弾がAを襲おうとしていた。

「止めろぉぉおお！」

虚しくもその叫び声は銃声にかき消される。
伸ばした手は惜しくも届かず。
刹那、Aの目の前に鈍色の光が横切った。
その光と共に銃弾は真っ二つに割れ、左右へ散る。
二、三発くらう覚悟を決めていたAは唖然としたまま目の前に立つ人物を見上げた。

藤の花を模した陣羽織が硝煙と共に風で揺れる。
凛とした背中に安心感と動悸を覚えた。

「三成、さん……」

背を向けたまま三成は地を蹴る。
そのまま銃口を向けていた織田の兵を“断罪”した。