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些細な約束 ページ28

ああ、まただ。
また理性が掻き乱される。
いや今回はほとんど自爆だったけど。
許嫁がいたことを知って少し不機嫌になった彼の顔が忘れられない。
もしかして嫉妬してくれたのかな?なんて乙女的な思考になっている。
そんなことを考えてしまう自分がいることさえ恥ずかしいし、認めたくない。

別のことを考えようと思考を巡らせていた時、奥の方から物音がした。
音がしたのは書庫の方。
気になって中を覗くと、本棚に手をかけたまま膝をついて苦しそうに咳をする半兵衛の姿があった。


「大丈夫ですか!?」


咄嗟に駆け寄って丸まった背中を撫でる。


「……大丈夫。思った以上に埃を被って噎せただけさ」


少し咳が治まると数回深呼吸をして半兵衛はゆっくり立ち上がった。
拭った口元には微かに血が付着している。


「本当に大丈夫ですか?血が出ていますよ」

「ん、あぁ……唇を切ってしまったかな?」


苦笑いしながら再び口元を拭う。

彼の身体が病に侵されていることは既に知っていた。
咳をする姿は何度も目にしていたが、まさか吐血するほど酷いものだったとは。
血が付いた手では書物も運べないだろうとAは半兵衛の部屋まで書物を運ぶことにした。

普段は側近しか立ち入りが許されない豊臣軍師の部屋。
足を踏み入れた途端、薬品の匂いと部屋の暗さに驚いた。
内窓には布が付けられ、まるでこの部屋だけ日没であるかのよう。
陽の光でさえも半兵衛にとっては毒らしい。


「暗くて驚いたかい?ああ、本はそこに置いてくれ」


指示された通りの場所に書物を置くために屈む。


「豊臣秀吉は貴方の病のことを知っているんですか?」


その問いに言葉での返事は返ってこなかった。


「……家康は昔から薬草とかに興味がありましてね。病にもそこそこ詳しいんですよ」

「そのようだね。怪我を負った兵士たちに薬を渡している姿を見たことがある。でも気持ちだけ受け取っておこうかな。彼の手を煩わせるわけにはいかない。それに織田との戦いも近い。あまり大事にはしたくないんだ」


柔らかい口調で語る半兵衛だが焦りが垣間見える。

彼は自分の命を犠牲にしてでもこの日ノ本に平穏をもたらそうとしている。
何百年にも渡って誰もが夢見るだけで為し得ようとしなかったことを為し得ようとしている。


「分かりました。じゃあ戦が終わってから頼んでみますね」


Aは彼の意志を尊重することにした。

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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時

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