許嫁 ページ26
徳川と戸田の因縁が切れたところでこの件は解決、というわけにはいかない。
尭光が動く要因となった背景には織田の存在があった。
問題は誰が織田を率いていたのかということ。
「天海という男はあくまでも仲介役だろう。奴が織田とどう関係しているかは知らんが、別で兵を率いていた人物がいるはずだ」
まだまだ寒い日が続く中、吉継の部屋にある炬燵に集った左近とAに三成は織田信長に代わる新たな指導者の存在を説く。
「A、誰が心当たりはないか?」
「そうですね……明智光秀は本能寺の変のあと消息不明ですし、それは濃姫や蘭丸も同じ。かといってお市様なわけないし、だとしたら」
Aの脳裏に織田の中でも一際訳アリな人物が浮かぶ。
「柴田勝家ですかね」
「柴田勝家ってあの魔王さんに挑んだって奴?」
「知っているのか左近」
思わず知った名前に反応してしまった左近は慌てて訂正する。
「いや、面識はほとんどないっていうか皆無っスけど、名前くらいは」
「そっかぁ……その話結構有名なんですね」
眉を八の字にしてAは困った顔をする。
「でも彼は私を避けていますし、私が関係している今回のことに首を突っ込むことはあまり考えられません。指導者が彼なら尚更です」
「そんなに避けられるほど何したんっスか」
Aは気まずそうに顔を逸らして苦笑いをする。
「彼は、その……私の元許嫁といいますか。色々あってお互い顔を合わせるのも気まずいといいますか」
Aの友人であるお市に想いを寄せていたかつての同僚、柴田勝家。
しかしお市には既に浅井長政がおり、その恋は叶わぬものとなってしまった。
お市を諦めきれない勝家に次の恋を進むようあれこれ助力していたが、何の手違いか上からの命令で二人は許嫁に。
思い出すだけでも色んな意味で心が痛い、とAは胸を押さえた。
「マジで!?あ、だから織田と戦うの躊躇ってたのか!」
「え、いやそれはまた違」
「貴様、嫁入りしたくないと豪語しておきながら許嫁がいたのか!」
「いや、ほんと昔のことですよ。今は婚約破棄されたので何の関係も」
「え……Aさん、フラれたんっスか?」
「やめてそんな目で私を見ないで」
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時