第三章『蚕食』 ページ25
やがて年が明ける。
秀吉に新年の挨拶をするために多くの人が訪れ、Aも女中として大忙しだった。
だがふとした時にいつも傍にいてくれた先輩女中がいないことに虚しさを覚える。
その虚しさを埋めるように、仕事に没頭した。
一息ついて部屋へ戻ると、先に戻っていた他の女中たちが「お疲れ様」と声をかけてくれる。
「Aちゃん大丈夫かい?いつも以上に動いていた気がするけど」
「全然大丈夫ですよ。休んでいた分の体力が有り余っているので」
嘘。
本当は今すぐ寝たいほど疲れているのに、他の人の前では見栄を張ってしまう。
「そうか。ならば少し付き合え」
聞きなれた声に身体が反応する。
開けっ放しの障子の前に立っていたのは三成だった。
「……なんでここにいるんですか」
「わざわざ労いに来てやった相手になんだその言い草は」
「あ、はい、それはありがとうございます。生憎ですが私は今からちょっと寝ようと……」
「体力は有り余っているのだろう?」
どうやら先程の会話を聞かれていたようだ。
Aは見えないところで舌打ちをして、疲労が募った身体を起こし、渋々三成の後をついて行く。
「で、何を手伝えばいいんですか?」
「労働ではない」
「じゃあ何を……」
詳細をはっきりとは伝えられず、そのままAは天守閣に足を踏み入れた。
普段屋敷で働いているため、天守閣に踏み入るのは余程のことがない限りない。
外装でさえも豪華だが、内装も負けず劣らず。
度々装飾に目を奪われながら階段を上がり、最上階へ辿り着いた。
三成が締め切った戸を開くと冬景色と共に一気に冷気が入り込む。
「なんでわざわざこんなところまで」
「半兵衛様のお慈悲だ」
外を見るよう指示され「寒い寒い」と言いながら下を覗くと、そこには家康と本多忠勝がいた。
「あ、そっか。今日で三河に帰っちゃうのか」
「人前では見送りも出来ぬだろうと今日だけこの場所に立ち入る許可を頂いた」
自分より低い格子に手をかけながらAは家康に向かって手を振る。
すると向こうも気がついたのか、ほくそ笑んで小さく手を振り返してくれた。
「次に会えるのはいつになることやら」
「名残惜しいか」
「そりゃもちろん。でも、以前ほど寂しさは感じないかな」
去っていく家康の背を見送る。
その横顔はまさに姉そのものだった。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時