懺悔 ページ19
「どういうこと……?Aちゃんに何が」
家康の反応に違和感を覚えたくノ一は天海に問いかける。
返ってきたのは問いの答えではなく、何かが肉を貫くような忌まわしい音。
耳に張り付くようなその音は随分近くから聞こえた。
家康や三成の驚愕した顔を見て、くノ一は恐る恐る視線を下げる。
彼女の腹部を貫いていたのは仲間であるはずの天海の大鎌。
「おっとすみません。手が滑りました」
「天海、何故ッ……」
反撃する暇も与えられず、くノ一は斬り捨てられる。
僅かに積もった雪の上に赤い雫が飛び散った。
「さて、貴方々を足止めする理由も無くなりましたし、私は撤退するとしましょう。あとはご自由に。クッ、ククク……」
じわじわと後退していた天海はやがて闇の中へ消えていく。
逃がすかとすぐに三成が後を追ったが、やはり天海の姿はどこにもなかった。
舌打ちをしたその後ろで、家康が斬り捨てられたくノ一の元へ駆け寄る。
「おい、しっかりしろ!」
「は、やく……Aちゃんをっ」
「その前に手当てを!」
手で止血を試みる家康だが、虚しくもくノ一の顔は段々青ざめていく。
「諦めろ家康。その女はもう永くない」
「まだ分からないだろ!」
三成の言葉にも耳を貸さず、必死で敵を助けようとする家康を見て、くノ一は涙が込み上げてきた。
「もういい……もう止めて……あたしが、Aちゃんに毒を盛ったの。あの人に毒の付いた手拭いを渡したの」
雪水が涙と共に頬から滑り落ちる。
罪を白状したくノ一はゆっくり目を閉じた。
「真喜姫様に喜んでもらいたかっただけなのに……どこで、間違えたのかな……」
小さく吐息を漏らす。
白い息が空へ上がって消えたのを最期に、くノ一は息を引き取った。
まだ生暖かい血が付着した両手を握りしめ、地面に叩きつける。
たった一人助けられなかった悔しさ。
姉に毒を盛った犯人に対して一言も文句を言えなかった憤りがぐちゃぐちゃに絡み合う。
「……そこの井戸で洗い流せ。それくらいなら待ってやる」
家康を見かねた三成は近くにあった井戸を顎で示す。
冷たい水で血を洗い流し、霜焼けした指先を再び握りしめて、彼らは戸田の屋敷へ向かった。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時