検索窓
今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:21,514 hit

立場 ページ11

尭光と天海が屋敷を去った後、 家康はAが休む部屋の前に立っていた。
障子に手をかけようとして、その手を引っ込める。直接話せる勇気がなかった。


「わしは今からあなたに酷なことを言う」


障子越しに聞こえる家康の声にAはうずくまりながら耳を傾ける。


「母上のことは諦めてくれ」


告げられた残酷な一言。
Aは微かに息を呑んだ。

今は“徳川”にとって大事な時。
戸田家といざこざしている暇なんてない。
頭では分かっていても、心がついていかなかった。
家康の姉として、真喜姫の娘として、色々考えるあまりAは何も答えることが出来ず、遂には耳を塞いだ。


「母上のことを話せば、きっと戸田の屋敷へ行ってしまうと思った。戸田の人たちは姉上ならきっと歓迎する。あの叔父上も姉上が味方につけば喜ぶだろう」


さっきまで尭光と言い争っていた家康の心には、尭光から言われたたくさんの理不尽な言葉のトゲが刺さっていた。
そのトゲのせいで普段なら少しで済んだ姉に対する嫉妬心が肥大化する。


「だが、あなたは徳川の人間だ。それだけはどうか忘れないでいてほしい」

*******

日没前、赤く目を腫らしたAは井戸の前に立っていた。
家康に言われた言葉がずっと胸の内で燻っている。
泣きそうな顔を清めるため井戸から水を汲んでいると、不意に後ろから声をかけられた。


「Aちゃん、大丈夫?」


声をかけてくれたのは先輩の女中。
彼女は心配そうにAの顔を覗き込んだ。


「はい、大丈夫です」


今の顔を見られたくないAは手拭いで顔を隠しながらいつもの声色で答える。


「さっき聞いたんだけど、お母さんが危篤状態なんだって?」

「……ええ、まあ」

「なんですぐ行ってあげないの!もしかして、上から何か言われたの?」


姉御肌の彼女はAが答えられないと悟ると大きくため息を吐いた。


「あの人たちは人の心が備わっていないのかしらっ!いいわ、あたしがついて行ってあげる」


先輩女中はAの腕を引くと、駆け足で裏門へと向かった。
幸か不幸か三成や家康は近くにいない。


「あの、ほんと大丈夫ですから……」

「何言ってんの!もう二度と会えなくなるかもしれないんだよ!もし上に見つかったら全部あたしが責任を背負うから大丈夫よ」


頼もしく笑う先輩女中。
彼女の後を追って走る度、微かに酒の匂いがしていた。

小さな太陽→←二剣ノ迷走



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (22 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
21人がお気に入り
設定タグ:戦国BASARA , 石田三成 , 三楓
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。