煩悶 ページ2
自虐的に笑いながら七輪の火を消して、小袖に付いた砂を払いながらAはゆっくり立ち上がる。
「それに、着物を脱げば身体は傷だらけですし、例え嫁げたとしても送り返されるのがオチです」
嫁入り前の娘としては相応しくない、稽古や戦場で出来た傷痕。
かさぶたが出来た場所はざらざらとした肌触りで、とても触り心地がいいとは言えない。
あまり人に見せられるようなものでもないため湯浴みも最後に入っているし、家康が調合した傷薬も毎日欠かさず塗っている。
「嫁入り前の身体に傷がつくのは良くないらしいな」
「ええ、野蛮と見られるでしょうから」
「お転婆」なんて言葉じゃ生易しい。
だからAはあえて「野蛮」という言葉を使った。
「野蛮で料理も下手。嫁ぎ先から送り返される理由としては申し分ない」
「……次余計なこと言ったらこの焦げた魚、口の中に詰めますからね」
三成のストレートな物言いは時に凶器となる。
なんでも思ったことを口にしてしまうため敵を作りやすい。
最も、彼自身は無意識でやっているからタチが悪い。
「誰も貰い手がいなくなったら私が貰ってやらんこともないぞ」
「ご冗談を」
笑いながら片手をひらひらとさせてAは台所へ足を進めた。
「……冗談でこんなこと言うわけないだろう」
「え?」
不意に聞こえた一言で足が止まる。
好奇心で言葉の真意を聞きたくなったが、心の中の小さなAが「これ以上踏み込んじゃダメ」と警告した。
酒宴で酔った時といい、小谷城で助けられた時といい……何気に三成と接触する機会が多かったAは毎回彼に心を掻き乱されていた。
そして今回もそう。
……だが、忘れてはならない。
今は豊臣と徳川の同盟のため人質としていることを。
「今、何か言いました?」
だから、呆けたふりをする。
聞こえたけれど、聞こえなかったふりをする。
「いや、なんでもない。そういえば、近いうちに家康がこの地を訪れるらしい」
先程の言動を三成もあまり触れてほしくないのか、咄嗟に別の話題を振る。
「家康が?」
「知らなかったのか?貴様なら既に知っていると思っていたが」
三成の言う通り、家康は用事があるとき大抵姉のAに対して律儀に文を寄越してくる。
だが今回は特にそういったものは届いていない。
「忙しくて文を出す暇が無かったんでしょう」
特に気にすることなく、Aは料理番のところへ焦げた魚を持って行った。
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作者名:三楓 | 作成日時:2019年10月28日 22時